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「ヘイ、生ビール二つね！」
『ありがとうございます』
「…うす」
『じゃあ、乾杯？』
「……っす」
駅前のごった返した大衆居酒屋。
そのど真ん中でビールジョッキをぶつけて、黄金色の液体を一気に喉に流し込んだ。
いつもなら旨いと感じるはずのそれも、どういうわけか何の味も感じられない。
それほどまでに目の前の女に緊張していると思うとムカついて、ジョッキを更に傾けた。
お酒強いんですね、なんて素直に感心したような声に適当に答えながら、お通しの煮物を口に放り込んだ。
これも、味は分からなかった。
『わたし、AAといいます』
「は？なんすか、それ」
『何って、自己紹介です。
一緒に飲んでるのに、名前も知らないのもあれかと思って』
「あー、…そうっすね」
『それで、あなたは…』
「…二口、堅治っす」
自分の名前を告げる。それだけなのに、自分が自分じゃないような感覚だった。
もっと話したい。もっと知りたい。
そう思って誘ったのに、全然上手くいかない。いつもみたいなどうでもいいような軽口も出てこない。
何ていうか、すげぇダサい。
脳内で鎌先さんが笑った気がして、かき消すようにビールを煽った。バカらしい。
底が見えたそれをもう一杯追加で注文してから、深く息を吸う。
「つーか、そんなら敬語もやめません？
別に俺は患者でも何でもねぇし」
『まぁ、そうですね』
「どうせ似たような年齢っしょ。
かたっ苦しいの、俺ごめんなんで」
腹に力を入れて声を出した。
いつも通りを意識する。意識してる時点でいつも通りなんかじゃないことは分かってるけど、それなりにできたと思う。
わかった、なんて笑ったその表情がやけに柔らかいだとか綺麗だとか、そんなことは思っちゃいない。
運ばれてきたビールに口をつけながら、俺と同じように二杯目を頼む姿を盗み見る。
緊張からか、自分のペースが早いことは何となく分かるけど、コイツのペースもそこそこだと思う。
「…人のこと言えねぇだろ」
『え？』
「酒。そっちだって強ぇじゃん」
『……そう？そうでもないけど』
含んだような言い方をして笑うその顔が赤い気がして、一瞬どきりとする。
本当に酒に強くあってほしい、なんて思いながら、運ばれてきた彼女のビールジョッキに自分のジョッキをぶつけた。
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さな(プロフ) - 柴田んぬさん» 柴田んぬさん、ありがとうございます！楽しんでいただけるように頑張ります！ (2023年1月22日 22時) (
レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
柴田んぬ - このお話すごく好きです！応援しています^^ (2023年1月22日 16時) (レス) @page5 id: 8796ade977 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さな | 作成日時：2023年1月20日 18時
