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病院近く、いつものバス停。
寒さに身を縮めながら立ってると、横に人が並ぶ気配がした。
『悪かったわね、清楚でもおしとやかでもなくて』
「盗み聞きかよ、趣味悪ぃ」
『聞こえるほどの大声で話してたからでしょ』
そいつが、真正面を向いたままごく自然に悪態をついてくることに、少しだけ気持ちが浮ついた。
今日のタイミングは、完璧だ。
と思いたいけど、正直狙ってた。
こっちは茂庭さんの退院見送った後に、わざわざ院内併設のカフェに寄ってコーヒー飲んで、コンビニでヤンジャン立ち読みしてんだ。
タイミングくらい、よくなってくれなきゃ割に合わねぇ。
『茂庭さん、無事に退院できて良かった』
「まぁ。誰かさん曰く頑張ってたらしいし」
『ふふ、そうね』
バスの車内は、人が少ない割に暖房なのか何なのかやたら蒸していた。
マフラーをとったところで目が合って、妙に気恥ずかしい。メシ食う時とか、顔見られてるから、今更だけど。
先に乗り込んだAが、空いている二人席に座った。
当たり前のように窓際に詰めて座る姿に、一瞬心臓が大きく跳ねる。
二人席は、今まで座ったことがなかった。
大人が並ぶには少し狭いそこは、俺の図体じゃ尚更狭い。
Aとの距離感を考えたら、俺はどうしたって座ることができなかったのに。
きっと、コイツはそんなこと考えちゃいない。
ヤケクソのように隣に身を押し込むと、収まりが悪い足がAの足にぶつかった。
『花束、茂庭さんすっごく喜んでたね。
あれ、二口くんからのサプライズ?』
「あれは青根…あー、俺の同期がどうしてもって。
俺は特に何も」
『ああ、どうりで。やけにセンスがいいお花だと思った』
「はい、やっぱお前喧嘩売ってんだろ」
会話は続くのに、頭の端っこでは触れたままの足が気になって仕方なかった。
いつもならポケットに入れてるはずの手だって、行儀よく膝の上なんかに置いてあった。
バカみたいに緊張してる。
『何、どうしたの?』
「……何もねぇよ」
お互いの防寒着の上から触れてるだけ。
体温なんかわかりゃしねぇのに、Aの体温が伝わってくるような気がして、触れた膝がじわじわと熱を持っていく。
Aの不思議そうな視線を受けながらも、顔は見れなかった。
『もしかして、ドキドキしてる?』
「…は」
ぐっ、とわざとらしく動かされた足。
心臓がもう一度、大きく跳ねた。
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さな(プロフ) - 柴田んぬさん» 柴田んぬさん、ありがとうございます!楽しんでいただけるように頑張ります! (2023年1月22日 22時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
柴田んぬ - このお話すごく好きです!応援しています^^ (2023年1月22日 16時) (レス) @page5 id: 8796ade977 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな | 作成日時:2023年1月20日 18時