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「……木兎さんがそんなこと」
『急だったので、びっくりしちゃって』
そっか、と頷く赤葦先輩に安心感と落ち着きを覚える。
今、わたしと赤葦先輩は1週間前のように空き教室で向かい合っていた。
部活の時間もあるし、今日はいいと断ったけれど、先輩の笑顔の圧に押し負けた。
『自意識過剰かもしれないんですけれど、あの時の光くんは、なんていうか……
わたしと同じ気持ちだったと思います。
はっきり言われたわけでもないし、むしろ逆にはっきりと、彼氏作って結婚して、みたいに言われたんですけれど、それでも……』
自意識過剰、と自分で言いはしたけれど。
主観でしかない。
わたしの勝手な妄想でしかないかもしれないけど。
あの時の目が、表情が、
わたしを好きだと、求めていた。
言いながら思い出して、顔に熱が集まって、
急いで顔を伏せる。
『わたしは気持ちを伝えてないし、光くんの気持ちも聞いてません。でも……あれは光くんの、一種の牽制なのかと思うと、わからなくて』
光くんを、いつまで好きでいいのか。
木葉くんに言ったことが、頭の中でぐるぐると回る。
光くんは何を望んで、あの言葉を言ったのだろう。
気持ちを伝えることも、もう叶わないのかもしれない。
そんなことを考えていると突然、
赤葦先輩の頭がグンと下げられて、冗談じゃなく本気で心臓がひやりとした。
「この件は、俺も何て言ったらいいのかわからない。ごめん」
『先輩が謝ることじゃ…!』
「ただ、木兎さんの気持ちに関しては、Aさんに全面的に同意する」
『……それって』
「俺も、木兎さんがAさんと同じ気持ちだと思うってことだね」
ごく、と喉が鳴った。
それが本当なら。
わたしの独りよがりな、妄想じゃないのなら。
「ひとつ、案があるんだけど」
『……案』
「そう、秘策。
ただこれは、賭けみたいなものかな。
上手くいけば、木兎さんが動いてくれるかもしれない」
『動くって…』
「Aさんに、向き合ってくれるかもしれない」
秘策。
ゲームやアニメの中で聞くような、そんなふわふわした単語が、急にグッと重さを持ったような気がして。
気づいた時には、椅子から立ち上がっていた。
そんなわたしを見て、赤葦先輩はごめん、と小さくこぼした。
「これは、俺に任せてほしい」
そう言い切った赤葦先輩は、なぜだかすごく苦しそうで。わたしは何も言うことができなかった。
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さら(プロフ) - 登場人物の心情や状況を色々な方法で表しておられ、こだわりを感じました。特に浴衣の色の対比にグッと来ました。主人公も赤葦のそういう真っ直ぐなところにやられたんだろうなぁ、と、結婚式までのお話も読んでみたくなりました!素敵な作品をありがとうございました! (2月21日 18時) (レス) @page40 id: 3384d29a03 (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - Renaさん» Renaさん!最後まで読んでいただきありがとうございます!このお話が最高だなんて…初めての完結作品だったのでたくさん読んでいただき本当に嬉しいです。ありがとうございます!! (2023年1月22日 22時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
Rena(プロフ) - 完結おめでとうございます!この小説見つけてから毎日毎日ケータイに穴が開くぐらいまで読んで、たくさん笑って、泣いて、最高の小説でした、こんな最高な小説を作ってくれて、完結してくれて、ありがとうございました、完結するのはとっても悲しいですけど嬉しいです、 (2023年1月21日 19時) (レス) @page40 id: 89e66a43fb (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - マロさん» 最後まで読んでいただきありがとうございます!温かいコメント、とても嬉しかったです。これからマロさんのコメントなしでどうすればいいんだァアアア!! (2023年1月21日 11時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
マロ(プロフ) - 完結ありがとうございます!そしてお疲れ様でした。毎日更新をとても楽しみにしていました。これからなにを楽しみにやっていけばいいんだァァァァア。゚(゚´Д`゚)゚。 (2023年1月20日 20時) (レス) @page35 id: 608bd786c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな | 作成日時:2023年1月7日 11時