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(黒尾side)
俺の言葉一つでどうこうなるもんじゃないだろうけど、でも。
そんなおせっかいから出た言葉に、木兎はしばらく目を見開いて、それから、大きく口を開けた。
「うん、知ってる!」
「フ…ハハ!知ってるか!そりゃそうか!」
木兎らしい、潔いその肯定に腹を抱える。
本当にコイツは。
想像以上どころか、斜め上をいきやがる。
「でも」
「ん?」
「俺に囚われないこれから先のが、いい顔するって思うと、俺は悔しい」
コイツは、木兎光太郎。
常人離れした妖怪みたいな男で、頼まなくても、望まなくても、敵も味方も巻き込んで魅了していく。
「あー何だ、よくわからんけど
それは好みの問題デショ」
でも、今日だけは。
こっちを向いたお前のその情けない顔に免じて、今日だけは、頼まれてねーけどお前の味方をしてやってもいいかな、なんて。
そんならしくないこと考えた。
「俺はあの時のAちゃん、結構好きだったけどね」
瞬間、木兎の顔が一気に崩れた。
歪んだって言うのが正しいかもしれない。
いつも明るくてバカみたいな笑い声が出るその唇を
小さく小さく震わせた。
「…俺も、すんっげー好きだった」
「そっか」
試合中よりも、何倍も小さくなったように感じる背中を軽く叩き、二人並んでしばらく静かに歩いていく。
もうバレーも終わったし、合同合宿だってない。
そうしたらコイツと、木兎と並んで歩くなんてことも、これが最後かもとか思うと、ちょっと感傷的にもなった。
笑うだろ、木兎相手にだぜ?
「黒尾」
「ん?」
「俺、さっき嘘ついた」
「……おー」
「俺、今でも、すんげー好き!大好き!」
何かを振り切るように、無理やり作ったような、
ヘッタクソな笑顔でそう言い切るコイツはきっと。
こうやって何かを犠牲にしてまで、一生バレーをやっていくんだろうと思った。
俺らが、到底犠牲にできないような、愛とか、大事なもん、そういうもんも犠牲にして、そんで一生バレーやってくような人間なんだ。
「俺、お前のそういうとこ、嫌いじゃないよ」
「こういうの何て言うんだっけ。
あれ、ほら、クサイ縁?」
「腐れ縁な。何だそのクサそうな縁」
そんな、根っから違うコイツと俺が繋がっていられる唯一のものも、きっとバレーで。
きっと俺らはいつまでも、バレーで繋がっていくんだと。
鼻をすすりながら笑う木兎を見て、そんなことを考えた。
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さら(プロフ) - 登場人物の心情や状況を色々な方法で表しておられ、こだわりを感じました。特に浴衣の色の対比にグッと来ました。主人公も赤葦のそういう真っ直ぐなところにやられたんだろうなぁ、と、結婚式までのお話も読んでみたくなりました!素敵な作品をありがとうございました! (2月21日 18時) (レス) @page40 id: 3384d29a03 (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - Renaさん» Renaさん!最後まで読んでいただきありがとうございます!このお話が最高だなんて…初めての完結作品だったのでたくさん読んでいただき本当に嬉しいです。ありがとうございます!! (2023年1月22日 22時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
Rena(プロフ) - 完結おめでとうございます!この小説見つけてから毎日毎日ケータイに穴が開くぐらいまで読んで、たくさん笑って、泣いて、最高の小説でした、こんな最高な小説を作ってくれて、完結してくれて、ありがとうございました、完結するのはとっても悲しいですけど嬉しいです、 (2023年1月21日 19時) (レス) @page40 id: 89e66a43fb (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - マロさん» 最後まで読んでいただきありがとうございます!温かいコメント、とても嬉しかったです。これからマロさんのコメントなしでどうすればいいんだァアアア!! (2023年1月21日 11時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
マロ(プロフ) - 完結ありがとうございます!そしてお疲れ様でした。毎日更新をとても楽しみにしていました。これからなにを楽しみにやっていけばいいんだァァァァア。゚(゚´Д`゚)゚。 (2023年1月20日 20時) (レス) @page35 id: 608bd786c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな | 作成日時:2023年1月7日 11時