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待ちに待った日。
わたしにとって、大事な大事な日。
光くんはそんな風に思ってないのかもしれないけれど。
でもそれでいい。
『光くん!』
「お!A!」
振り返って、名前を呼んでくれる。
真っ直ぐにわたしを映してくれる。
それだけが、すごく嬉しい。
嬉しくて、嬉しくて。
朝早くから準備した髪の毛もメイクも気にせずに、
履き慣れていない下駄も関係なしに走って。
走りすぎて崩れたわたしの前髪を、優しく撫でて、
結局力が強くて上手くいかず困ったように笑う。
そんな光くんが、この時間が大好きだから。
「今日あれだな、A浴衣着てるの、なんかいいな!花火大会だから?」
『うん!楽しみで、久しぶりに着てみたの!』
「中学の時のは、白かったもんな。
その紺?黒?のもAに似合ってんな!」
紺も黒も暗かったらわっかんねーな!と口を尖らせる光くんを前に、一瞬時が止まったかのようにフリーズする。
天然人たらしの光くんだから。
褒めたり、そういうのは覚悟してたのに。
2,3年前に着てた浴衣を覚えてくれてたなんて。
こんなのは、準備してなかったから。
『っ、光くん!花火の前に色々食べよう!』
「お!いいな!
花火大会の屋台って肉もあんのかな」
こういうのにいちいち反応していたら、今日は身がもたない、とうるさい心臓と熱い頬を必死に落ち着かせて、光くんの腕を引っ張る。
今はもう無邪気に肉のことを考えてる光くんに、今度はキュッと心臓が痛みだす。
どれも今まで当たり前だったものだけど。
今日で、全部終わりにするから。
こういう時間を、頬の熱さも、心臓の痛みすらも全部、覚えておこうと思った。
.
〈 『光くん、今年の花火大会、一緒に行かない…?』
「花火大会?って、あの神社の近くでやってる
やつ?」
『うん。中学の時、一回行ったよね?
最近は光くん部活もあったし行ってなかったけど、
今年は部活お休みって聞いたから…』 〉
あの時、光くんが少し苦しそうな顔をしたのは、
見間違いじゃないと思う。
それはわたしの気持ちに気づいてるからなのか、それに応える気がないからなのか。
もしくは、別の理由からなのか。
〈 「うし!行くか!花火!!」 〉
それでも、そう言ってくれた光くんはやっぱり、わたしの大好きな、眩しいほどの笑顔で。
それがどれだけ嬉しかったか、きっと光くんは知らない。
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さら(プロフ) - 登場人物の心情や状況を色々な方法で表しておられ、こだわりを感じました。特に浴衣の色の対比にグッと来ました。主人公も赤葦のそういう真っ直ぐなところにやられたんだろうなぁ、と、結婚式までのお話も読んでみたくなりました!素敵な作品をありがとうございました! (2月21日 18時) (レス) @page40 id: 3384d29a03 (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - Renaさん» Renaさん!最後まで読んでいただきありがとうございます!このお話が最高だなんて…初めての完結作品だったのでたくさん読んでいただき本当に嬉しいです。ありがとうございます!! (2023年1月22日 22時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
Rena(プロフ) - 完結おめでとうございます!この小説見つけてから毎日毎日ケータイに穴が開くぐらいまで読んで、たくさん笑って、泣いて、最高の小説でした、こんな最高な小説を作ってくれて、完結してくれて、ありがとうございました、完結するのはとっても悲しいですけど嬉しいです、 (2023年1月21日 19時) (レス) @page40 id: 89e66a43fb (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - マロさん» 最後まで読んでいただきありがとうございます!温かいコメント、とても嬉しかったです。これからマロさんのコメントなしでどうすればいいんだァアアア!! (2023年1月21日 11時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
マロ(プロフ) - 完結ありがとうございます!そしてお疲れ様でした。毎日更新をとても楽しみにしていました。これからなにを楽しみにやっていけばいいんだァァァァア。゚(゚´Д`゚)゚。 (2023年1月20日 20時) (レス) @page35 id: 608bd786c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな | 作成日時:2023年1月7日 11時