大事なひと２【木兎光太郎】【赤葦京治】

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『森然高校での合宿、実はちょっとだけ覗きに行った日があったんです』

「え、来てたの？」

『偶然と、日向くんの善意が重なった結果というか』






日向、という名前にちょっと引っかかる様子の赤葦先輩に、ゆっくり、順に話をする。




合宿で見たもの。

光くんの輝く姿。
周りすらも巻き込み、魅了していく姿。

どんな人も動かす、光くんのバレー。




光くんは、きっと、こうやってずっとバレーをやっていくんだと思ったこと。
何を犠牲にしても、何を捨てても、バレーを愛して生きていくんだと、そう、思ったこと。



光くんがバレーよりわたしを選ぶことがない理由を、ちゃんと、理解したこと。

そしておそらく、光くん自身も、それを理解していること。




口に出すと、何だかスッキリした気がして。
やっと答えが見えたような感覚で、自然と口元が緩んだ。

そのまま赤葦先輩に向き直ると、対照的に先輩はひどく疲れた顔をしていた。






「……Aさんは、それでいいの？」

『んー、いいかと言われたらわからないんですけれど。

でも光くんを応援するために、わたしはちゃんと、離れなきゃいけないと思いました』

「それで、いいの？」

『あ、でも！未練がましいんですけれど、夏休み、一回だけでも光くんとお出かけしたいなって思ってて！』






同じ言葉を繰り返す赤葦先輩には、やっぱり全て見透かされてる気がして。

答えを悩んだ瞬間に、全てを吐き出してしまいそうで。無理やり声のトーンをぐっと上げた。






『それを、最後にしようと思います。
それを思い出にして、ちゃんと、諦めます』






一言一言、ゆっくり、確かめるように。

言葉を重ねる度に、少しずつ、
光くんが離れていってるような気がして。


感傷的になりそうで
唇をぐっと噛んで、口元に力を込めた。






『急にすみません。
赤葦先輩には、たくさん相談にのってもらってたのに』

「いや、俺は別に……何もしてないから」

『だから、この間お話してた秘策も保留でお願いしたいなって。今日は、それを言いたくて』







今日、赤葦先輩に言いたかったこと。
それを全て言い終わって、ふっと短く息を吐く。






「……うん、わかった」






最後のお願いに、赤葦先輩が渋い顔のまま頷くのを見て。
それからもう一度、深く息を吐いた。

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