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(赤葦side)


何で木兎さんは、逃げるんですか。



どんな時も全力で、バレーをがむしゃらに愛して、
どんな相手にも全力で立ち向かう。
ずっと一人だった俺に、燃え上がるような、湧き上がるような感情を教えてくれた。

こんな俺を最高だと褒めてくれた。




そんな、スターである木兎さんが何で。

何で、木兎さんが。




俺なんかより、彼女の横にいるべきなのは木兎さんで。彼女だってそれを望んでいるのに。





何で。






「…木兎さん、は、Aさんのこと」

「赤葦ーぃ!!!」

「っ、!」






突然の木兎さんの大声に、冗談でも比喩でもなく床が揺れた。

どんな怪物だ、とツッコみたくなったけど
正直それどころじゃなかった。








その声は、俺にとって特別なもの。






試合中。
それも木兎さんが絶好調な時に聞く、
俺を呼ぶ、トスを呼ぶ声。


トスがほしいと、俺のトスがほしいと、
俺を求めて呼ぶ、俺の、大好きな声。






「Aのこと、頼んだからな!」






泣き笑い、というのは、こういうことを言うのだと思った。

辞書に出てくる意味とはきっと違う。
泣きながら笑ってることを指すんじゃない。




泣きそうな心を隠して、それを律して、
それでも尚、笑っていようとする。

そういうことを言うのだと。





その瞬間、わかってしまった。
木兎さんがどうしてAさんを拒むのか。







俺は、この人を見誤っていた。


木兎さんにとってバレーがどういうものか。
木兎さんにとって、Aさんがどんな存在か。

全くわかっていなかったんだ。






俺のこの告白で、木兎さんがAさんと向き合う?

なんておこがましいことを考えていたのだろう。
木兎さんは、もう十分、彼女に全力で向き合っていたというのに。






「赤葦になら、安心して頼めるな!

だから、……頼んだからな、赤葦」






大事なひとを、ちゃんと大事にする。




言葉にすれば簡単だけど、
実際にはきっと、すごく難しい。


大事なひとというものは、とてもやっかいで。
やっかいだけど、すごく大事で。





木兎さんにとってのAさんは、
まさにそういう存在だったのかもしれない。






「………はい」






俺が、木兎さんも、Aさんも大事にするにはどうするべきなのか。

眩しいほどに輝くスターの横で、
その答えをちゃんと探そうと思った。

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さら(プロフ) - 登場人物の心情や状況を色々な方法で表しておられ、こだわりを感じました。特に浴衣の色の対比にグッと来ました。主人公も赤葦のそういう真っ直ぐなところにやられたんだろうなぁ、と、結婚式までのお話も読んでみたくなりました!素敵な作品をありがとうございました! (2月21日 18時) (レス) @page40 id: 3384d29a03 (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - Renaさん» Renaさん!最後まで読んでいただきありがとうございます!このお話が最高だなんて…初めての完結作品だったのでたくさん読んでいただき本当に嬉しいです。ありがとうございます!! (2023年1月22日 22時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
Rena(プロフ) - 完結おめでとうございます!この小説見つけてから毎日毎日ケータイに穴が開くぐらいまで読んで、たくさん笑って、泣いて、最高の小説でした、こんな最高な小説を作ってくれて、完結してくれて、ありがとうございました、完結するのはとっても悲しいですけど嬉しいです、 (2023年1月21日 19時) (レス) @page40 id: 89e66a43fb (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - マロさん» 最後まで読んでいただきありがとうございます!温かいコメント、とても嬉しかったです。これからマロさんのコメントなしでどうすればいいんだァアアア!! (2023年1月21日 11時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
マロ(プロフ) - 完結ありがとうございます!そしてお疲れ様でした。毎日更新をとても楽しみにしていました。これからなにを楽しみにやっていけばいいんだァァァァア。゚(゚´Д`゚)゚。 (2023年1月20日 20時) (レス) @page35 id: 608bd786c9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さな | 作成日時:2023年1月7日 11時

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