292 ページ42
.
「あ…………、」
「お前の頑張りの全てを隣で見ていてやれなかった事が口惜しいよ」
「ううん……ううん、だってお父さんは皆のヒーローだもん。俺、ヒーローしてるお父さんが好きだよ。超かっこよくて、学校の友達にもいつも自慢してるんだ。それに、お父さんが家族のために頑張ってくれてる事、ちゃんと知ってるし。どんなに忙しくてもこうして時々修業に付き合ってくれるしさ。俺、それだけでも充分嬉しいよ。ホントだよ！」
前のめりに父を擁護する燈矢の熱弁に、炎司の口元が優しく和らぐ。
目尻を下げて「そうか」と慰めを受け止めると、
「ありがとう、燈矢。強く優しい子に育ったな。いつかきっと、お前は俺と肩を並べて立てるような……いいや、俺よりもずっとすごいヒーローに、きっとなれる」
その力強い称賛に何故だか泣きたい衝動が生まれたのはほんの一瞬で、燈矢の心はえもいわれぬ幸福で瞬く間に埋め尽くされた。
「……へへっ、何て言ったって、俺はお父さんの子供だからね」
照れ隠しのように肩をすくめて笑う燈矢を、炎司が見ている。
その視線が逸らされる事は、決してない。
「ああ、流石は俺の息子だ。お前は俺の誇りだよ」
＿＿＿＿＿幸せだった。
尽きる事のない多幸感に、燈矢は包み込まれていた。
嬉しくて、嬉しくて。
幸福が甘く身体に染み込んで。
心は安らぎ、感情は穏やかに凪いでいた。
不足しているものなど何もない。
降り注ぐ陽は温かく、草木は青々と生い茂り、そしてここには、家族が居る。
燈矢を見つめ、燈矢を認め、燈矢に期待して、愛してくれる父が居る。
一番欲しかったものがここにある。
一番好きなものがここにある。
一番＿＿＿＿＿
「本当に……、そうだったっけ？」
無意識の内に、ふと湧いて出た疑問を口にした燈矢は、ハッとして自分自身の口を押さえた。
この幸福に浸っていたい。
余計な事を考えれば、穏やかな心に水を差してしまいかねない。
今朝と同じだ。
違和感など見て見ぬ振りをして忘れてしまおう。
何も考えてはいけない。
思考してはいけない。
ただひたすらに、与えられる幸せだけを享受して＿＿＿＿、
「ねえ、燈矢兄。さっきの、もう一回見せて」
くいと服の袖を引かれ、横を向いた燈矢の視界に、一本の大樹が映り込んだ。
大きさ故か桁外れの存在感を放つその木の幹は太く分厚く、地表に露出している根まで同じようにガッシリとして力強い。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 830人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
メケメケ(プロフ) - まおさん» まおさん初めまして〜！わ〜、私もこんな素敵なコメントを頂けてとっても嬉しいです！😭説得力ある深い愛情を綴れるのが長編の良い所だと思っているので、そう言ってもらえて嬉しいです！�Ь呂諒�にもぜひお付き合いください☺️ (1月5日 13時) (
レス) id: 9f81822037 (このIDを非表示/違反報告)
メケメケ(プロフ) - うさん» 動いてる心臓とはもちろん、、、🥺3話くらいまとめ書きしてから7章を更新しようと思っているので、もう少々お待ちください！近々続きを出しますね！😊 (1月5日 12時) (レス) id: 9f81822037 (このIDを非表示/違反報告)
まお - メケメケさん初めまして！こんな素晴らしい小説に出会えてとっても嬉しいです！！登場キャラからアズちゃんへの愛情がとても伝わってくるし、誰が何をしているのかが読んでいてとっても分かりやすい丁寧な文章で本当に大好きです！これからも応援していきます！ (1月5日 2時) (レス) @page50 id: 956050c9e8 (このIDを非表示/違反報告)
う - 動いてる心臓とは…？やめるんだっ廻さん！？やばくないですか！？応援してます！ (1月4日 13時) (レス) @page50 id: 7215328c99 (このIDを非表示/違反報告)
メケメケ(プロフ) - ねねさん» 幸せなお話なので大丈夫なはず、、、という判断のもと今年もバリバリ更新していきます！🥲👍 (1月3日 19時) (レス) id: 9f81822037 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：メケメケ | 作成日時：2023年12月21日 14時
