黎明の日没 ページ13
それから彼は少年に「思い出したこと」を話始めた。少しずつ、日が昇っていく。少年が呼吸で止血するように、傷を塞ぐ方法はないかと聞いても彼は「無い」と速答した。
「俺はもうすぐに死ぬ。喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。弟の千寿郎には自分の心のまま、正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。父上には体を大切にして欲しいと。それから」
彼は1拍おいてまた話続ける。そんな彼に私は近付けないでいた。怖い、このまま彼が居なくなってしまうのが。死ぬだなんて言わないで。まだ助かるかも知れないじゃない。
「竈門少年、俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める。汽車の中であの少女が血を流しながら人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い人を守る者は誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ。」
聞きたくない。彼の言葉は現実を見せる。こんな現実なら見たくない。信じたくない。お願いだから嘘であって欲しい。
「胸を張って生きろ」
駄目だこの先は確実に聞きたくないことを聞かなくてはならない。仕方がないこと、当然のこと。貴方はきっとそう言うのでしょう?どれだけ貴方のことを想っていると思ってるの。わかるの。だから聞きたくない。思わず耳を塞ぐ。でも何故か私の名前を呼ぶ貴方の声は手を通り抜けてしまうみたい。
「A、どうしてそんなところにいるんだ。こっちにおいで」
そう言って彼は、あの日と同じように両手を広げた。その胸に飛び込むと、あの日と同じ、日の香り。ずるい、貴方はとても狡い。最後の最後まで、私の心に、記憶に残ろうとする。ずっと悲しい。ずっと寂しい。
「すまない、あの約束は守れそうにない。・・・ああ、泣かないでくれ。そんな顔をさせたくはない」
「杏寿郎様、」
無理に決まっているじゃないですか。どれ程辛いことか。分からないんですか。
「笑っていてくれ。」
「杏寿郎、様っ」
泣きながら首を横に振る。貴方がいなくなってしまうのに笑顔でなんていられない。
「君には笑顔がよく似合うからなあ」
「ぁぁ、っ杏寿郎様!!」
杏寿郎様の腕の中で泣き続ける私の頭を優しく撫でて、とびっきり優しい声で彼は言った。
「愛している」
お日様の匂いのした彼は、もう動かなくなっていた。
その日、私の太陽は沈んでしまった。
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なるせ(プロフ) - 2次元屋さん» コメントありがとうございます。そう言っていただけて嬉しい限りです!頑張りますね! (2019年8月17日 13時) (レス) id: e20a86a6d7 (このIDを非表示/違反報告)
2次元屋(プロフ) - はぁ素晴らしい、めっちゃ続きが気になります!これからも頑張って下さい! (2019年8月16日 22時) (レス) id: cc493f2c39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なるせ | 作成日時:2019年8月9日 18時