弱虫 ページ8
案の定、角名くんは教室に入るなり私の方に寄ってきた。しかも1番に。
普段大人しくぼっちで目立たない私と、人気者の角名くん。多分一番に角名くんに話しかけようとしていたであろう松本さんが、険しい顔で私を見ていた。その目はちゃんと言っている。「なんであの地味子なの？」と。
途端、さっきまで「夢じゃなかったのやばくない？」と角名くんと話そうとワクワクしていた気持ちが死んでいく。代わりに生まれたのは、いつもの私。目立ちたくない、恨まれたくない、という私。
「ねぇA、昨日の」
『夢じゃなかったね』
あぁ、やってしまった。速く角名くんと話を終わらせたくて彼の話を遮ってしまった。それは、松本さんに恨まれたくなかったから。影響力のある彼女に恨まれれば私は、もうこの教室にはいられないだろう。角名くんはちょっとだけ目を見開いてから「ね」と短く言った。
「ねぇ角名なんの話ー？」
私の机の前に立っていた角名くんの隣に、ぴょこっと可愛く松本さんが並ぶ。
「えー、内緒」
「え〜もったいぶんないで教えてや〜」
「や、俺とAの秘密」
"俺とAの秘密”
その言葉にどきっとした。二つの意味で。
一つは松本さんにどう思われるか、ということ。案の定彼女は「ずるいー」とふざけている風に笑っていたが、目は笑っていなかった。
二つ目は…。私はもう一度、そっとさっきの言葉をなぞる。
"俺とAの秘密”
その言葉が胸をくすぐる。不本意にくすぐられてしまう。
でも私、角名くんに悪いことしかしてない。ビンタしちゃったし、話をさえぎってしまった。2人の秘密とさえ、言ってくれた優しい彼を一言も喋ったことのない女の子に嫌われることを恐れて避けたがっている。
私、最高に嫌な奴だ。
その後、角名くんは何度か私に話しかけようとしてくれたが私はすべてトイレに行くなりして避けてしまった。
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作者名：兎月うさぎ | 作成日時：2021年11月3日 2時
