夢現の狭間【角名倫太郎】 (ページ5)

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はじめましてページ5

「痛っ！」

聞き覚えのある声が瞬間的に降ってきて、私の冷静さが脳みそから顔を出した。

………あれ、もしかして？

私は恐怖のせいででできた涙をごしごしと擦り、先程私がビンタした幽霊を初めてちゃんと見た。

しゃがみこんでしまった幽霊は、身長は分からなかったが頭部だけても誰だかすぐに分かった。

『…すな、くん……？』

吐息みたいな弱々しい声が口から漏れた。

「………A意外とビンタ強すぎ…」

冷静になって声を聞いて、改めて「あぁ角名くんだ」と思う。幽霊じゃなかった、と安堵するのと同時に角名くんをビンタしてしまった、という罪悪感に駆られる。

『ほんっとうにごめんなさい！！』
「や、俺も驚かせて悪かったし。怖がらせてごめん」
『え…』

角名くんから発せられた意外すぎる言葉に私は思わずまじまじと彼の顔を見つめてしまう。

私は暴力をしたのだ。イレギュラーな状況でテンパっていたからとはいえ。しかも顔面に。彼の頬にはきちんと私の手の大きさと同じ形の手のひらの跡がくっきりと漫画のように残っている。
それなのに、私に「怖がらせてごめん」と謝った。逆に怖かってごめんなさい、なのに。

夜の学校で対面してから初めて、私の顔を見た角名くんがぷっ、と突然吹き出した。

『え？』

肩を震わせて何かにツボる角名くんを、私が呆然と見ていると彼は笑いながら口を開いた。

「泣くほど…ふふっ……泣くほど怖かったんだ」
『えっ！？泣いてないよ！』

私は自分の目じりに触れた。……濡れてる。え、嘘でしょ。私、ガチ泣きしてたんだ。手のひらで顔を包み込むとガッツリ頬も濡れていた。かなり恥ずかしい。

『…あんま見ないで』
「りょーかい……ふっ」
『まだ何かツボるの？』
「だってさ、いっつもA大人しい感じなのに俺にめっちゃビビって超騒いでたじゃん。珍しいもん見た」

ここで、話慣れている人なら「うるさいなぁ」とかうまく何かが言えるのかもしれない。でもいじられ慣れていない私は曖昧に頷くことしか出来なかった。