君と笑い会えたら

43.帰りてえ ページ44

「こやつの名前はA。場を把握させる為に今回は見学させるが、今後俺の不在時に歌わせるつもりだ」


ケイさんが私の肩にぽんっと手を置き、彼らに説明する。ていうかやっぱり私もレッスンに参加するのね。色とりどりの個性強い4人を前に穴が開くほど見つめられ、めちゃくちゃ居心地が悪かった。

そんな精神的に追いやられている私に、ケイさんは平然と追いうちをかける。


「小間使いにするなり、ケチを付けるなり何なりと可愛がってやれ」

「！？なんですかそれ！私の事いじめ倒すつもりですか！」

「打たれ強いのが取り柄だろう」

「いやいやいや！豆腐メンタルですから！！」


ケイさんは私をからかうのが本当に得意だ。ていうか素でやってんのか？楽しんでるように見えるんだけど。
私はケイさんから連絡貰ったとおりにレッスン場に来ていた。仕事が遅くなり慌てて来たら、既にリハは始まっていて。私に気付いたケイさんがレッスンを中断して、冒頭の説明に至るわけでした。


「異論のある者はいるか？」


「俺は構わない。Aの実力は知ってるからな」

「面白そうだから俺は構わねえぜ」

「マスター代理のケイが決めたことならボクは従う」

「…え？皆さん物分り良すぎじゃね？」


本当にいいのかそれで。
次々と頷いていく彼らに吃驚する。いやまあ銀星さんは分かるけど、初対面の2人まで快諾すると思ってなかった。そんな中、吉野さんだけ強張った顔をしていた。思えば私に歌ってもらうとケイさんが説明した瞬間から吉野さんの表情は曇っていて。初めて会った道案内してくれた時の彼の笑顔とは打って変わったその表情に私は戸惑いを隠せなかった。


「答えはどうした？あとは貴様だけだ、吉野」

「…僕は」

「っていうか普通嫌ですよね！他の方々が寛容過ぎるって言うか…、じゃあ今回の話は無かったということで！」

「場を和ませようとする心構えは殊勝なことだが、余計な事だ。貴様は黙っていろ」

「つれえ」


当たり強くない？
ガタイのいい人が銀星さんに「あいつ面白いな」って耳打ちしてるのが聞こえるくらい、場は静まり返っていた。それについての銀星さんの返答は「Aは変わってるからな。話してて飽きないよ」だってさ。信者の銀星さんに変わってるって言われたくない。

静寂の場で、吉野さんはぽつりと言葉を紡いだ。


「…僕も大丈夫、です」

「フッ。…あとはリコか。あやつの返答は聞かずともよいか」


え？リコさんって人可哀想じゃね？



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