撮影が終わっても。［K.M］ (ページ45)

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練習と本番とページ45

「本番行きまーす」

――

『文月、また間違ってるぞ』

『あっすみません』

『今度ミスったら…どうなるかわかるよな？』

演技だと分かっててもドキッとするような鋭い目付き。

――

段々場面も進んできて、
健くん演じる鳴瀬先生と、
私演じる文月リリの距離が縮まりつつある。

文月は先生のことが好きで、
でもこの時は先生の気持ちは分からない……

というのが“設定”である。

実際には、台本を読めば続きが書いてあるし
この物語に分からない気持ちなんてないんだけど。

実生活もそうだったら傷ついたりしないのにって、
時々、作品の世界の登場人物たちが羨ましくなる。

「カット！！！」

カットがかかると、途端に穏やかな顔になる
その瞬間の健くんの顔を見るのも好きだ。

ドSキャラは似合ってるけど、
太陽みたいに素敵な笑顔の方がもっと似合ってる。

「疲れてない？あ、ちゃんとお水飲んでる？」

「はい。ありがとうございます」

こうやって気遣って頂いて、
その優しさに触れる度に私は私として
健くんに惹かれているような気がする。

同時に、
“気がする”くらいでこの気持ちはとどめておかないとダメなんだってことも分かってる。

この先ずっと文月と鳴瀬先生として過ごすことができたならどんなに幸せだろう、なんて考えて無性に悲しくなった。