撮影が終わっても。［K.M］ (ページ4)

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2月某日。

大学3年生に上がる前の春休みだ。

あの街で声をかけられた日から今日まで、

驚くほどの量の契約書を書いたり、

長時間電話で打ち合わせをしたり、

とにかく入念に準備をして今日を迎えた。

「Aさん、お迎えに上がりました」

「ありがとうございます」

「では、行きますよ」

事前に頂いた立派な台本を忘れないようにカバンにつめて、家を出る。

この時点で私が知っているのは、

台本の内容、

今から宿泊施設へ向かうということと、

それから、今迎えに来てくれたのが

マネージャーとして私をお世話してくださる坂田さんというお名前だけだ。

住む場所がどこなのか、

どんな方々がこの作品に関わっているのか、

全く知らないままだった。

「着きましたよ」

「あれ、もう…ですか…？」

自分自身の掠れた声で寝ていたことに気づいた。

「随分ぐっすりとお休みになっていましたからね」

「すみません」

「とんでもない。きっと昨夜は眠れなかったのでしょう？
休める時に休む、役者として体調管理は大切なことです。」

爽やかに微笑む坂田さん。

〝役者として〟

という言葉がやけにくすぐったかった。