寒い日の話@wtnb ページ7
最近寒くなってきた。ため息を吐くように息を吐き出せばその息は白く濁っている。2人して口元から白い息を吐く。
「寒いね」
「そうだね」
この寒い中一緒に帰っているのが俺の好きな人。元々は同じ中学だった幼馴染みたいヤツ。こっちに出てくるのに家賃相場調べてビックリしてる時に「合格！ルームシェア募集！」とか送ってくる突拍子も無いヤツで、中学の頃の初恋の相手、とはいえ3年も会ってなかったら思いは消えてるだろうと思っていたけど実際に会えば思いはぶり返して、けれどOKと言った手前断ることも出来ずになんだかんだもう3年半強も暮らしている。私生活には全然関与してこなくて、距離感がちょうど良くてこんなに経ってしまった。
「おでん 食べて帰る？」
「おでん？」
「うん」
Aが俺の手を引いてコンビニへと入っていく。レジ前に着けば店員に「こんにゃくと大根とえっと…」と話し掛けている。ぼーっと隣でAの顔を見ていれば首を回したAと目が合う。
「航平は何食べる？」
「あー… 糸こんとか？」
「ふーん」
あれとこれと、と選ぶA。店員の言った値段を目の前に出してレジ袋を受け取り外に出る。
「選んだの私だし、出すよ」
「いいよ気にしなくて」
「よくないよ」
「いいんだって 俺がそう言ってるんだから」
レジ袋片手に言っても決まんないな、俺。かっこ悪いな、俺。って思いながら家へと帰る。がちゃり、と開けたドアノブに「ごめん、先に」とAが入りその後俺が入って鍵を閉める。置いてくるよ、とレジ袋を取るように持って行ったAを見送って先に手を洗った。お箸とお椀を用意したAは袋からおでんを取り出して蓋を開けた。味の染みたおでんは美味しい。2人で無言で食べる。少し時間が経った後にAがねぇ、と話し掛けてきた。
「航平さ中学生の時、東大目指すって言ったじゃん」
「うん」
「その時もおでん食べたよね」
「そうだったっけ」
ちょっと悲しそうにAは笑った。俺はそうだったけ、なんて返したけど俺はもちろん覚えてた。絶対行くから、って言った時にAが私も行くって言ったから。俺と一緒に行ってくれるって言ってたから。でもそんな昔のこと覚えてるって言ったら昔からAの事が好きだったってバレそうだから俺はそのことを言えない。Aはあの日も餅巾着を食べていた。あの日から時間が経ったけれどAは全然変わらなくて、それがすごく愛おしい。
@とある寒い冬の日
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作者名：山 | 作成日時：2020年1月14日 4時
