［完］もう二度と会いたくなかった3【佐野万次郎】

・ ページ40

□






「お前の笑顔がないとつまんねぇ…」





万次郎は、目を背けることなく私の目をしっかり見て苦しそうな顔でそう伝える。

　





「お前の声が聞こえないと、不安になる

」


『(…万次郎、泣いてるの？)』





彼の頬には一粒だけ滴が落ちた気がした。





「Aが隣にいないと、生きていけない」





あの時とは、違う面影。

けれど、あの時と同じで、心の底から言っていることがわかる。

次の瞬間、彼は何も言わずにスッと右手を差し出した。





『！』



















“ほら、行くぞ”





“で、来んの?来ねーの?”





“A”



















この手があれば、私はどこにでも行けた。どんな時も、この手が私を導いてくれた。でも、一度離してしまったら繋ぎ直すのが難しくて、怖くて。

また、何かあったら？

また、間違えたら？

また、別れることになったら？

もう辛いのは嫌。苦しいのは嫌。苛まれるのは嫌。



















『(…無理だ)』



















私は、その手を握れなかった。



















□

もう二度と離さないで→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す