クローゼット ２

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「おかえりなさい」
「まさかねてるとは」
「……ごめんなさい。なんか、考えごとしてたら寝てしまったみたいで」
「まあ引っ越しって疲れるしね」
そうだよなー。手伝ってもあげられなかったもんな。
「おはずかしいです」
「これからもっとはずかしいけど？」


気がついたら口をついて出ていた。
え、おれなにいってんの？
って思ったら、Aちゃんもびっくりしたみたいに「え」って言う。


うーんやっぱりね。
やっぱりだめだよね、まだそんな距離感じゃねえ。



ごまかす！！

ずい、とAちゃんに近づく。


「え？」
「え、じゃないよ」


くす、ってわらいながらケーキを取って、あーん、ってAちゃんにやってみる。



「ほら、あーんしてやろう」
「しません！」
「ひどい」


ふふふごまかせたな。うん、ごまかせた。おれっててんさいだな。



「いつ頃おれになれてくれる予定ですぅ？」
「……それは、はい、なるべく善処します」
「ぜんしょってやらないときに言うやつ」
「えへへ」
「えへへじゃない」


買ってきたケーキはあまくておいしい。
そうだ、食べて早く寝よう。うん、余計なこと考えだす前に寝てしまうのがいい。



「さ、食べ終えたらはみがきして寝よ。おれあしたはやいんだ」



自分で誘っておいてなんだけど、これ以上一緒にいるとヤバい気がしてならない。
自分の理性がまだ、仕事をしているうちに、うん。


なのにAちゃんはなんだかぼんやりしている。
ねむいのかな？
かわいいのとなんだかくやしいのがまざって、ぽかん、と頭をたたいてしまった。



「いたっ」
「ほらー、はみがき、おれおえってするからね！」
「そんなこといばられても」



こまったみたいに言うAちゃんを置いて洗面所に行く。
いやー、一緒にはみがきってちょっとあこがれてたよね。
て、意識を一つ一つ行動に集中する。


「Aちゃんがきてくれてうれしい」
「……ありがとうございます」
「よし、ねよ。おやすみ」
「おやすみなさい」


あぶなかった！ なんだよ、もしかしておれ、自分で自分の罠にはまっちゃったかんじ？ え、いつになったら手をだしてもいいんだろ？？ おれ全然奥手じゃないんだけど？？


その日はもんもんとしながら部屋でごろごろして、なんでこんなことになったんだろって、自分のことをちょーっとだけきらいになった。

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