隣の席 2 ページ47
「隣になると、うわ、隣だー可愛いなーって思ってて、はい、これが正直なとこです」
「うー、まさかそんなことを言われるとは」
「ふふふふふ、まさかでしょう?」
笑いながらちょっと赤くなってる。
こちらをちらりと見る目が、黒く濡れてて、あれ、わたし……なんかすごく緊張してきてない??
「えーっと、オカワリ頼もうかな」
「まだたくさん残ってますよ?」
「あ、加藤くんグラスが」
「まだまだ入ってます」
「ちょっと手を洗いに」
「なんなんすかその逃げ腰! 自分でつっこんできたんじゃないですか」
そうだったかも、しれぬ。
だけどこんなふうになるとは思ってもなかったので。
イケメンでお酒が強くて才能に溢れてる、のに、人見知りの可愛い加藤くんが。
隣で急に男の人に変わってしまって、どうしていいのかわからない。
「迷惑でした?」
「まさか!」
自分でも驚くほど大声が出て恥ずかしくなる。
「いや、迷惑とかじゃなく、あの、ただ困惑していて」
「困ってる?」
「……戸惑ってる」
「ほらあーーー」
そう言いながらこちらをちらりと見て、加藤くんがちいさな声で言う。
「そういうとこも可愛いすぎて」
吐息とともに話すことばが。
「隣にいると、変になる」
魔法みたいに、わたしを動けなくするから。
わたしは、顔をおおってその場に崩れ落ちる。ヤバい、恥ずかしすぎてもう顔見られないかも。
「Aさん? 大丈夫??」
加藤くんの声がすぐそばでする。
「……加藤くんのせい」
「え、なにが?」
勝者は余裕を持って応えてくる。
「Aさんどうしたの?」
「加藤くんのせいでもう顔あげられない」
「じゃあ顔あげざるを得ないようなことしちゃおうかな」
がばっ
勢いよく顔を上げると、加藤くんがわはははははと楽しそうに笑った。
なによー、最初の可愛さはどこにいったのよー
でも、耳元が赤いのは、ちょっと可愛い、かも?
「してごらんよ!」
負けず嫌いを発揮して小声で挑発してみる。
おおきな瞳をじっと見つめ返して。
「加藤くんなら、いいよ?」
ちいさな声で続けたら、加藤くんは目を丸くして、それから、テーブルに崩れ落ちた。
「悔しいー」
「引き分けだね」
「Aさんの、負けず嫌い」
「なんのことですかー?」
ぷーん、て、知らなーいって顔しながら、目の前のジントニック飲み干す。
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作者名:由乃 | 作成日時:2020年4月20日 15時