ケーキ 2 ページ44
そこまで言って、おっと、というふうに小山さんは口を閉じた。
それからまた、紅茶をひとくち飲む。
「わたし、どうかしましたか?」
心配になって聞いてみる。
小山さんはめずらしく少し動揺した感じに、いや、まあ、と言葉を濁した。
「Aさんも、その、ケーキお好きですよね?」
「? はい、働いちゃうくらいには」
ケーキは大好きだ。甘い香り、やわらかなスポンジにクリーム。ムースの官能的なすべらかさ。それから、それから
くすくす。
は、と気づくと、小山さんがニコニコしながらわたしを見ている。
「え、っと、あの」
「Aさん、よくお店でもそんな表情してるから」
「えっ」
た、たしかに、お店でもケーキにうっとりしてることは、あるかもしれない。
そんな表情見られてた!?
「ケーキ大好きなんだろうなーって。俺と同じだなーって。でもそんな表情するAさんてめちゃくちゃ可愛いなーって」
ニコニコ微笑みながらそう言われて、わたしの顔は一瞬にして真っ赤になってしまった。
すると小山さんも急にぼわっ、と赤くなってあわてだした。
「あ、いや、ものの例え、いや例えでもないな、可愛いなーって思ったのは本心ですけど今下心はないというか、部屋にお呼びしておいて絶対こんな話はするまいと思ってたのに、あの、嫌ですよね、ごめんなさい!」
めちゃくちゃ焦っている。
そんな小山さんを見るのは初めてだ。
「あ、あの、大丈夫ですなんなら今すぐタクシー呼びますし、絶対指1本触れませんし、俺、その、こんな話するつもりじゃ」
「こ、小山さん落ち着いてください」
「いや、大丈夫ですから!って部屋に呼んでおいてあんな雰囲気を!!」
いやどんな雰囲気。
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作者名:由乃 | 作成日時:2020年4月20日 15時