もう怒らないで ページ21
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リビングに向かう翔ちゃんの背中から
不機嫌が滲み出してるみたいで
それ以上何も言えなかった。
きっと、言い訳ばかりする私に
腹を立てたんだ。
そう思ったら、気持ちはどんどん落ち込んで
下を向いたまま、顔を上げることもしないで
ただひたすら濡れた髪に
ドライヤーの風をあてた。
―――翔ちゃんに、嫌われた？
その重苦しい言葉に、
胸が不安一色に塗り替わる。
「イヤだよ…そんなの」
なんか心が重くなったような感覚に、
背中までもが少し丸まってしまう。
いつまでも、ここにいるわけにもいかずに
一度深く呼吸をして
鏡に映る自分へと言いきかす。
「……変なこと言わないように」
これ以上、翔ちゃんを怒らせないように。
そう思いながら
リビングのドアノブに手をかけると。
「っ、」
開けた瞬間、何故かドアの前に
翔ちゃんが立っていた。
咄嗟に息を殺して
自分の存在を消そうとしたけど
顔を合わせているので意味がない。
でも、してしまう私…
『ちゃんと髪乾かした？』
「…う、うん」
『じゃあ、ちよっと話せる？』
そして、そのまま私の腕を取って
ソファーに向かう。
ソファに座る翔ちゃんと、
並んで座るのが怖くて、その足元に座る私。
『今日のことだけどさぁ…』
そう言って、一瞬眉を寄せた翔ちゃん。
やっぱり…怒ってる。
『なんで、俺の足元に座るの？』
「え…っと、翔ちゃんが新しく買った
ラグの上が…すごく柔らかくて…」
はぁ…と。
ため息吐く翔ちゃんに
深読みばかりがつのる。
やっぱり怒ってる？
あれだけコンサートに行かないって言ってた
私に文句言いたい？
家から出て行けなんて言わないよね？
どうしよう、ちゃんと説明しなきゃ…
でも、翔ちゃんの顔が怖いから
このまま逃げたい…よ。
自分勝手な想像に
胸が押しつぶされそうになりながらも
耳を塞ぐ勇気もなくて
ただただそこに座り込んでいた。
『今日、コンサートでAを見つけた時
マジ焦った』
「うん、ごめん…」
『わざと俺をびっくりさせたの？』
「ま、まさか！違う、違うよ！」
私は、一つ一つ丁寧に
今日の経緯を翔ちゃんに説明した。
「…だから、翔ちゃん。」
絞り出した声は辛うじて聞こえたようで
『なに？』
「ごめんなさい…もう、怒らないで…」
自分の指先を見つめながら、
翔ちゃんの言葉を待った。
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作者名：ミイ
| 作成日時：2013年12月9日 15時
