天使が住まう家 (ページ8)

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〈あんなやつ生きててもしょうがないんだ、もう殺してしまおうか〉

包丁を持った父親がこちらへと近づいてくる。
子供の私ではなく今の私を殺そうとしている。

後退り逃げようとするも腰が抜けて力が入らず立ち上がることもままならない。

「こないで…！」

どんどんと縮まる距離に恐怖から呼吸が浅くなっていく。
振り上げられた包丁をやけにスローモーションに見えた。

包丁が腹部にグサリと突き刺さり視界が血の赤で染まったところで目が覚めた。

「…っ…！」

悪夢からようやく目覚めて良かった筈なのにガタガタと体の震えが止まらず自分で自分の身体を抱きしめる。
喉の奥からヒューヒューと変な音がして呼吸が出来ない。

視界が涙で滲んだ。

「だ…れか…」

だれかたすけて。
そう願った瞬間コンコンと控えめなノックの音がして部屋の扉が開いた。

「A？」

優しい彼の声が私の名前を呼ぶ。
私の様子がおかしいことに気づくと慌ててこちらへと駆け寄ってきた。

「大丈夫、落ち着いてゆっくり息吐いてみよう」

私を胸元に抱き寄せて耳元でそう囁く。
たまらずその高級そうなシャツを握りしめて縋り付いた。

「ゆっくりで良いんだよ、そう上手だね」

背中をポンポンと優しく叩く彼はこんなときでも私を褒めることを忘れない。
まるで幼い子供あやすようだったけど、今はそれがとても心地いい。

そうしているうちに段々と呼吸も落ち着いてきたが、私は彼にへばりついたまま離れることが出来なかった。

その日初めて私は彼と一緒のベッドで眠りについた。