【陰陽師】邪神と陰陽師の異形な絆【短編集】

重なる ページ7

年に一度の、三大陰陽家が一堂に会する懇親会が、今年も開かれた。


御三家に名を連ねる者同士で親睦を深める名目の元、腹を探り合い、権力を抑制し合い、一触即発な火花を散らしかける。


毎年、私は無難な交流の後、会場の中でも一際人の居る様子が無い所へ行き、終わりまで静かにやり過ごすようにしていた。


穏便を装った物々しい集会に参入すると、己の異質さが輪を掛けて浮き彫りになるから、億劫だ。


言を俟たないことだが陰陽師は男性の官職で、私が公認されるまでは女性が就くなんて有り得なかった。


だから私は運の良い人間だったのだろう。


恵まれた伝手と環境に保障されながら陰陽道を学べて、勉強や実践の成果が出せたのは、運が良かっただけ。


よく言われているのは知っているし、そんなこと私が一番よく分かっている。



「考え事か？」


私は慌てて顔を上げた。


何故此処にという質問は不毛でしかない。


盆を片手に持つオロチが私の隣に座る。


「お前は時折塞ぎ込むように思い耽っているな」


膝に置いた盆には、一口大に作られた竜胆の形をした上生菓子が二個と、湯気を立てる藤花柄の湯呑み茶碗が一個。


三家各々の一推しを持ち寄った茶菓子を軽食として出しているそうだが、長居を避け続けた私は未だ食べたことがない。


小楊枝で刺した菓子一個を食む姿が、突如あのお方と重なった。



人間と妖怪の共存を望む人であり、男性と女性の同権を望む人でもあった。


種族も性別も家柄も関係無しに、実力のある者を優先に取り立てる世であればと祈るように口にしては。


お前はきっと先駆けになると鼓舞激励し続けてくれた恩師はもう居ない。


今みたいに人目を憚りポツンとしている私の側に来て、美味しい菓子を食べさせてくれた優しい師匠。


懐かしさと恋しさに躊躇わず、私はオロチから差し出されたもう一個を頬張った。



だが直後、不快な味と食感に悶える。


吐き出すのを抑える私を横目に茶を啜ったオロチが微かに眉根を寄せてから、湯呑みを私へ渡す。


菓子を強引に奥へ流し込みたい私は迷わず飲み干した。


喉を通過し胃へ降ったは良いものの、茶の嫌な濃さと悪い苦味が口内に残る。


前屈みに蹲る私にオロチはぼやく。



「初めて人間の食物を不味いと思った」



私も貴方の「不味い」という感想を初めて聞いた。



丸めた背中を摩ってくる手に面影を感じた。


貴方と先生は全く似ていないのに。


どうして重なるのだろう。

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