【陰陽師】邪神と陰陽師の異形な絆【短編集】

甘美な縁 (ﾘｸｴｽﾄ) 壱 ページ27

『お疲れ様ですA様！ 先程ご連絡があったのですが、本日、藤原道綱様がお越しになるそうですよ』


「え……はい。分かりました……え？」


自分の部屋へ戻って来たAを困惑させるのは、藤原を冠する著名ではない。


派手やかな装飾を施された四角い折箱達が整然と並べられている、己の机上の光景だ。


まるで高級品が陳列する飾り棚のような有り様である文机の上で、備え付けられているかのように佇んでしまっている紙人形も、この事情に立ち会っているというのに困惑しているらしい。



数々の箱は全てAへの贈り物。


贈主達は皆さらりとしながら「チョコレート」だと告げ、主人の代理である紙人形に手渡した。



聞き慣れない響きの品名に首を捻り、漆器を思わせる艶々しい箱越しに中身の匂いを確かめてみれば、嗅いだことのない甘い香り。


A様なら何事なのか分かっているかもしれない……と大人しく帰りを待つも、結局二人揃って不思議がる羽目。


このような釈然としない事態に折好く、先刻知らされた来訪者達が登場する。



「Aー！」


「こんにちはー！」


神を斎き祀る島より出て賑わい栄える都へ来たりし雅楽の女神と、其処に汚れがあるならば独楽鼠のように清掃してしまう綺麗好きの妖怪。


そして神と妖の先頭に立つは藤原家の陰陽師。



「A殿！」


茶柱やら茶葉やら茶碗やらを扱う占いを得意とするその青年は、眼鏡の奥の慇懃な瞳を和らげて、膨よかな香りの笑顔を漂わせた。


両手には、Aへの多量な贈り物と同型の四角が恭しく収められている。



「お忙しい中お時間を割いて頂きありがとうございます。此方はチョコレートという世にも珍しい菓子でして、日頃より大変お世話になっているA殿に是非受け取って頂きたく参りました。子供が喜ぶ甘みと大人が嗜む苦みの調和が絶妙で、私も気に入っています。A殿のお口にも合うと嬉しいのですが」


「うわあ胡散臭い。所詮はただの菓子、そんなに好きじゃないって言ってた癖に」


弁舌さわやかの道綱を、臭う物でも睨め付けているかのように見ていた垢嘗が、はきはきと声を尖らせた。


道綱の眉間にひっそりと寄せられた皺……注視しないと分からないその存在を、Aと紙人形は察しながらも穏便を保つ。


察しられたのを察した道綱は、眼鏡の鼻にかかる部位を指で押し上げる仕草、これを上手く利用し僅かな隆起を均す。

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