【陰陽師】邪神と陰陽師の異形な絆【短編集】

籠目の鳥 後 ページ15

蛇に感情は無い、有るのは本能だけだ。


何処かで聞いた話を私は思い出した。


でも、自分の体より小さな生き物からの視線を見つめ返す蛇の目には、友達のような恋人のような、或いは父親のような……上手な例え方が見つからない何かを感じる。


神々しい。


そういう言葉がよく似合う情景だと思って、私達は柄にも無く感動していた。


穢れが充満した瘴気の中で、ようやく澄んだ清浄な空気を吸えたような心地でいた。


蛇の口が引き千切れるように裂けるまでは。




ばくり。




猿面は気が触れた声で慄き私の懐に逃げ隠れた。


人形達は信じられないと言いたげに身を強張らせて動かない。


あの人は。


血の色をした、大口の中へ。


すっぽりと、食べられてしまった……。




ごくん。




蛇の首が聳り立つ。


踏ん反り返るが如く顔を上げる姿は、奥へ奥へと呑み込んでしまえば永遠に私のものだと満悦しているようだった。



お面達がカタカタと物音を立てて震えて怯えている。


私は全身が冷えていくのを感じた。


空高くで傍観していた私達を仰ぐ目が、狙いを定めるように凝視してきたからだ。


息を潜めていた人形達だが遂に短くか細い悲鳴を漏らす。


殺される。


人形の一人が譫言のようの言った、でも……大蛇はまるで私達なんかには興味が唆られないと言わんばかりに、やんわりと顔を背けてもう此方を見ることはなかった。


ずっと無言だった狐面が、やっと私の耳元で囁く。



「伝説の通り……悪趣味な神様」



愛する人間が害虫に食い荒らされる前に、自ら手折って食らうなんて狂っている。


そう述べる狐面の感想は真っ当なはず。


しかし何故だろう、私は、狐面の声には、結末を知った気でいる語り部のような傲慢さが含まれているように感じてしまった……。



暫し呆然としてからはっと我に返った私は、夢から目覚めた思いで荒地を刮目する。


いつからだったのか、大蛇は跡形もなく消えてしまっていた。


其処には何枚かの桜色の花弁が散らばっているだけ。



「あれは……食べ残し」



狐面がまた私に囁いた。


確かにあの人は、桜のように綺麗で、儚い最期だった。

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