【陰陽師】邪神と陰陽師の異形な絆【短編集】

加護 ページ11

酷く疲れると、暗いことばかり考えてしまうのが、人間の弱さの一つだ。



私は陰陽師として、私の守るべきものの為に、私にとっての敵を祓い清め、時には滅せねばならない。


信念を大事にしてきたから、鬼船が陸地に災禍を撒く様に、強く憤り、無茶な霊力の使い方を繰り返したことは否めない。


でも、罪を背負って消滅した若頭と、その死を嘆く海国の者達の姿に、内なる憎悪が息つく間もなく削られていくのを感じた。


殺戮で愉悦に浸る悪鬼という事実が私の見た現実だが、真に宿す優しい強さを知る海の民から敬愛されているのも、事実であり現実。


だから何だと言う、迷惑な話に同情は出来ない、私は鈴鹿山の妖怪じゃない。


奪われた多くの命への冒涜と分かっていても、切り離せない自分がいた。


彼らも私達と同じ、守るものが確かにあり、それは無視するべきでなく。


戦争が無くならないのは、こういうこと。


分かり合うとは、片方の意志が折れ想いが絶える可能性を孕んでいて、それが嫌だから、皆道を違えるのだ。


一筋縄ではいかない現世で、どうすれば自分の最善を尽くせるのか……その問いに恩師はこう答える。


お前はどうしたいのか、お前ならどの道理を選ぶのか、お前の心に恥じない決断をする為に、全てを理解せずとも構わないから、考え続けることだけは忘れるな。


そう説いた私の師の希望は、もう潰えてしまったのかな。


私には師の絶望を否定出来る力が無いから、置いていかれてしまったのかな。


こんなにも考えることが多くて、気が迷って、踏み止まれなくなって。



「死にたい」



「そうか」



首に向かって冷たい気配が近付き、今私は縊られると頭の片隅が他人事のように呟く。


しかしその両手は首元を掠めていっただけで、私の首を締め上げることはない。


お包みのような腕に体を巻かれながら神様の声を聞いた。




お前の命を終わらせてやることは容易い。




先程の言霊が誠と言うならば、お前の願いは叶える。




だが。




「私は、お前が居なくなったら、寂しい」




私は、自分の機嫌の取り方や精神の落ち着かせ方を熟知している、つもりだ。


それは結局不完全だったが、それでも良いと思えるくらい、オロチの腕の中は安らぎがある。


そうだ、私を信じてくれた巫女達に対しても、無責任になる訳にはいかないもの。


生きていると理不尽なことが沢山あるけれど、やっぱり負けたくないから、本当の最期まで頑張ってみよう。

巫女達→←赤雪紙鶴 後

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