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「賀茂家の陰陽秘術」(捌) ページ23

「……私は陰陽師ですから、都を守る義務があります。それ以外の理由などありません」


理解に苦しむ。


荒の表情はそう物語っている。


「お前は命が惜しくないのか?」


Aは迷わず頷く。


命を賭ける覚悟はいつだって出来ていた、つもりなのだ。



「師匠にお会い出来るのだと思えば……死など怖くありません……」



荒の目が見開かれる。


Aの表情は幸福感に痺れていて、天にも昇る心地の如く嬉しそうで。


それが更に荒の心を傷つけているのだということに、Aは気がつかない。


本当の意味で死と隣り合わせになっているAには、他者を気遣う時間も余裕も残されていないのだから。



「お前は……私よりも……」



答えを分かっている上での質問は、こんなにも恐ろしいのかと、荒は思った。



「私の側にいることよりも、己の使命を全うすることの方が大切なのか……?」



「……そう思われてしまっても仕方がありません。私は、私の使命に、背けないのです」



荒は失意の表情を見せた。


一度は永遠に失い、もう二度と信じることは無いと思っていた、人間が持つ優しさと温かみ。


Aと出会えて、その愛情を受ける喜びを思い出すことが出来て。


荒はとても幸せだった。


それなのに。


また、裏切られてしまうなんて。



「……お前には失望した」


「失望してください」


散り際の花のように微笑み、緩慢に瞳を閉じていくA。


叩き起こしてやりたいのを、荒は強い理性で抑え込んだ。



「……もう信じては頂けないかもしれませんが、私は、本当に……」


温もりが消えてしまったAの手が、荒の頬に添えられる。


それも僅か一瞬だけ。



「貴方のことを、愛していましたよ」




それきりAは何も言葉を発さなかった。


荒は愛しいAの容れ物から腕を離せずにいた。



守れなかった。


都を救う為に命を落としてしまう運命から。


御饌津にもっと念押ししておくべきだったか。


急いでいたとはいえ、細かく事情を伝えることを怠った故に、御饌津の油断にも繋がってしまった。


いや、それ以前に、自分が玉藻前相手に手こずっていたばかりに……。




「おい、て、いか、ないで、くれ……」




嘆きを聞く者はもういない。


虚しさだけが残る夜空の下でたった一人、涙の粒を散らす無力感と孤独感。



それは、冷たい海の中にいる気分と、よく似ていた。



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SSR出演率の高さに今気がつきました……!

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「神の煩悶と狐の決意」(壱)→←「賀茂家の陰陽秘術」(柒)



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設定タグ:陰陽師 , 陰陽師(ゲーム) ,   
作品ジャンル:恋愛
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イズモ(プロフ) - みつきさん» ふわっとした説明ですみませんが、そんな感じです! (2023年4月6日 12時) (レス) id: f0acbe1894 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - みつきさん» 容姿の詳細は読者様へお任せしていますが一応自分の中では……前髪ぱっつんのロングヘアで髪色はピンクラベージュっぽい色味の暗髪、瞳は桜のような色をしていて色素が薄めなのでフチが金色の瞳孔(黒)が見やすい……とイメージしています。服装は狩衣です。 (2023年4月6日 12時) (レス) id: f0acbe1894 (このIDを非表示/違反報告)
みつき - 主人公の容姿ですがイズモさんは、髪の色や服装瞳の色、髪型などはどのように考えていますか?主人公についてです!できれば教えてください! (2023年4月5日 21時) (レス) id: 5d80019c07 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - みつきさん» コメントありがとうございます! 主人公は式神ではないのでレア度は特に決めていません。晴明神楽博雅八百比丘尼と同じく陰陽師枠のつもりで妄想しました〜。 (2023年4月5日 12時) (レス) id: f0acbe1894 (このIDを非表示/違反報告)
みつき - どのくらいだと思いますか?SRくらいですか? (2023年4月5日 8時) (レス) id: 5d80019c07 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イズモ | 作成日時:2018年9月12日 22時

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