【陰陽師】荒神と陰陽師の平安な日々【肆】

「賀茂家の陰陽秘術」(壱) ページ16

都は壊滅状態であった。


建造物のほとんどが焼け落ちてしまっていても尚、業火は灰すら残さず全て焼き尽くそうと燃え上がり、黒煙を撒き散らす。



御饌津とAを乗せた狐が都へ足を踏み入れ数歩進んだ次の瞬間。


瀕死の朧車が、道を塞ぐように目の前へ倒れこんで来た。


寸前で狐が急停止し、その振動が傷に伝わってAは小さく呻くが、意識が飛ばぬよう必死に踏ん張った。


奥歯を噛み締めながら、Aは朧車が吹き飛ばされてきた方向を見る。


焦げ崩れた建物の隙間から、小妖怪を一掃すべく奮闘する無常兄弟の姿が見えた。



「黒無常！ 白無常！」


「A殿！？ それに、御饌津様も……！」


Aの声に応え真っ先に駆けつけたのは白無常。


黒無常は、敵の攻撃を鎌で受け止め弾いてから、A達の元へ急ぐ。


Aは狐から降りる。


「A！ お前、頭を怪我したって博雅から聞いたぞ！ 平気なのかよ！？」


頭に包帯の巻かれたAを見るなり、黒無常が早口でまくし立てる。


「平気ですよ。そんなことより、現状を教えてくれませんか？」


頭の血管が痛みでドクドクと脈打つのを確かに感じながらも、Aは上手に笑顔を作った。


黒無常と白無常、そして御饌津までもが、Aの強がりに気がつかずホッと息をついた。


「……見ての通り、焼け野原待った無しだ」


黒無常は焼け跡を横目に見てから、現在、晴明達と手分けして都に蔓延る妖を退治している真っ最中だと説明する。


ついでに、自分達は閻魔の命令で参戦したこと、見習いの童子達には危険な任務だと判断し連れて来なかったことも、説明に付け加えた。



「朧車の奴等、狩っても狩っても空から湧いて出て来やがる。その辺の雑魚妖怪も数が多すぎて切りが無いぜ……！」


不満を全面に押し出す黒無常に大いに共感し、白無常は疲れ切った溜息を吐く。


「これでは埒が明かない。諸悪の根源を倒さない限り、この連鎖は止められないでしょう」


「……玉藻前の元へ、急がねばなりませんね」


Aの呟きを聞いた御饌津が、ハッと何かを思い出す。


「A。玉藻前は、スサビ様の幻境の中にいるのよ？」


御饌津が何を言いたいのかをAは先読みし、自信ありげに微笑む。


「私は幻境へ侵入する術も心得ております。ですから心配は御無用です」


兄弟と御饌津は流石だと言わんばかりの感心の視線をAに送った。

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