【陰陽師】荒神と陰陽師の平安な日々【肆】

「炎上の大晦日」(拾壱) ページ11

一方博雅は、煙を吸って噎せながらも、ようやくAと神楽の元に辿り着く。


「神楽！ A！ 無事か！？」


「私は大丈夫！ でも、Aが私を庇って……！」


涙声で答えた神楽の膝元に、前頭部辺りから血を流したAが横たわっていた。


どうやら神楽を抱えて受け身を取る際に、瓦礫か何かで頭を強打してしまったらしい。


「A……！！」


博雅の表情が更に険しくなる。


「どうしよう、血が、Aの血が止まらない……どうしよう博雅……！」


「落ち着け、神楽……！」


負い目を感じ取り乱す神楽。


動揺しながらも博雅はそっとAの体を抱き起こす。


ぽたぽた垂れる赤い雫が、地面に小さな血溜まりを作った。


「くっ……蛍草がいれば、傷口を塞ぐことが出来るんだが……！」


悔しそうに博雅が呟いた瞬間、巨大な影が三人の頭上を過ぎった。


敵襲かと思い神楽と博雅は身構えたが、呆気に取られることとなる。



神々しい巫女装束に身を包む、白と金の髪の少女が、黒毛の大きな狐に跨って、A達を伺っていた。



「その子を！ Aを私に！」


「あ、貴女は……！？」


神楽の質問には答えずに少女はただ「早く！」と二人を急かした。


博雅はAを横抱きにしてから、少女を見据える。


「味方、なんだな？」


強く頷いた少女の曇りなき眼を信用して、博雅はAの体を狐に乗せた。


少女は両腕でしっかりとAを支えながら、狐を走らせ都の外へ行ってしまった。



「玉藻前……どこへ行った……！？」


「安心なされよ、晴明殿……」


血眼の晴明に、陰陽師の男が声を掛けた。


「玉藻前は逃げたのでは無い……」


目を据える晴明と小白。


男は続けた。



「奴は今……あのお方の幻境の中に……」




雨粒の音、波の囁き。


荘厳と構える鳥居、連なる墨色の山々。


空中や水面に浮かぶ灯篭が、ぼんやりと周囲を照らしている。


神秘的な儚さに包まれたこの場所で、玉藻前だけがポツンと佇んでいた。


「見事な景色だな」


どこからともなく近づいて来る気配に勘づきつつ、呑気に月と星空と眺めながら、玉藻前は夢見心地に息をついた。



「……これはこれは。高天原の」



余裕の笑みを見せる玉藻前に、荒は毅然な眼差しを向けていた。



----

玉藻前ファンの方ごめんなさい(遅きに失する謝罪)
それと荒の出番が少な過ぎたのはアレです。
遅れてやって来るヒーローだからです。

----

「元風神と稲荷神」(壱)→←「炎上の大晦日」(拾)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す