「荒海の神子」(柒) ページ43
紙人形達はヒソヒソと囁き合う。
その内の一体が、大急ぎでAの部屋に向かって走り出した。
「お前は何者だ。何を企んでいる」
「何も……企んでなんか……!」
「隠すな。正直に言え」
残された紙人形が荒の指を少年の手首から引き剥がそうと奮闘するが、敵う訳もなくビクともしない。
痛みと恐怖で涙を滲ませながら、少年は精一杯叫んだ。
「たっ……助けて、Aさん……!!」
その名を聞いた荒は僅かに動揺する。
「荒様!」
紙人形に連れられAが駆けつけた。
「Aさんっ」
荒の力が緩んだ隙に少年はAの元へ逃げる。
見ると、簡単に折れてしまいそうな程細い少年の手首に、痣のような指の跡がくっきりとついている。
Aは我が子に暴力を振るわれた母親のように血相を変えた。
少年を背後に隠し、荒を強く睨む。
「何故この子に乱暴をなさったのです」
「では逆に聞くが、お前は何故そのような得体の知れん奴を庇うのだ」
「何故って、貴方もお気づきになられているはずでしょう。この子は」
「そいつは祟りだ」
言葉を遮ってまで断言した荒に、Aと少年は目を見開く。
「そいつは必ず都に厄災をもたらすだろう」
どうしてそう言い切れるのか。
この少年が受けた苦痛を、一番理解しているはずなのに。
Aの疑問は段々と怒りに変わった。
「その時が来たら、お前は責任を取れるのか?」
海に消えたはずの過去の自分が、突如目の前に現れたら、不快にも思うだろうし不吉にも思うだろう。
だが、この少年を守りたいという気持ちが遥かに勝ってしまっているAには、荒の気持ちを考慮する余裕など無かった。
「撤回してください」
「私の忠告を無視するのか?」
一歩も引かずに、荒を凝視しながら、Aは怒鳴った。
「この子は決して祟りではありません! 撤回してください!」
荒は黙った。
賀茂忠行を非道な男だと貶してしまった際に向けられた時のと同じ、憤怒の宿る瞳。
密かに狼狽したが、それを悟られぬよう荒は歯をくいしばる。
「……どうなっても知らんぞ」
そう吐き捨ててから、荒は二人の前から去った。
しばらく口を聞いてくれないだろうな、とAは内心傷つきつつ、少年の頭を優しく撫でる。
「怖かったですね」
「怖かった……でも……」
少年は自分の体を抱き締めながら、呟く。
「あの人が言ったこと、間違っていません……」
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時