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「濃紅と濃黄の中で」(捌) ページ35

鬼使い達に見送られながら、Aは道先案内用の紙人形に付いて行く。


この広大な楓林を適当に歩き回ったのだから、来た道など流石に覚えている訳がないので、紙人形の力が必要だった。


歩いて、歩いて、やっと遠くに荒が見えた。


荒は木にもたれ掛かって俯いている。


お預けをくらって不貞腐れているのかとAは一瞬思ったが、更に近づくとそうではないことが分かった。



荒は胸の上で腕を組みながら眠っていた。


そんな体勢でぐっすり眠れるのかと疑問を抱きつつAは、この面をつけて話し掛けたらどんな反応を見せてくれるのかとも考えた。


悪戯心が芽生え、早速実行に移る。


「荒様、荒様」


面を顔に当てた後、荒の腕をトントンと叩く。


荒は直ぐに目覚めた。


「A……何だそれは」


まあ大方予想通りな薄い反応。


実に荒らしい。


もう少し驚いて欲しかったなぁと思いながらAは苦笑する。


「落ち葉のお面です」


「見れば分かる」


そう言いながら荒は面をよく見る為に、葉柄を摘んでいるAの手ごと掴んで引き寄せた。


じっと眺めて、少し間を空けてから目を細めて笑う。


「間抜けな顔をした面だな」


「酷いことを仰いますね。黒童子と白童子が一生懸命作った物ですよ」


「ほう……鬼使い達に会ったのか」


「はい。キョンシー三兄弟にも会いましたよ。皆思い思いに秋を楽しんでいるのですね」



ほのぼのとした会話で、油断が生まれてしまっていたのは否めない。


突如引っ張られた勢いで葉柄を支える指が力を失い、面はAの手から滑り抜け、地面に落ちる。


前のめりになり、Aは荒に向かって倒れ込んでしまう。


Aの両頬を、荒は両手の平で包み込んで、上を向かせた。




そしてそのまま吸い寄せられるように、荒とAの唇がぴったりと重なり合った。




驚き目を見開くAに容赦することなく、まるで温度と感触を確かめるかのように、荒は口づけを深めた。


体を後ろに引こうにも、流れるような所作で腰と後頭部に移動した荒の腕に阻まれる。



力尽くではあるがどこか優しさの溢れている接吻に、Aはなす術無く溺れていった。

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設定タグ:陰陽師 , 陰陽師(ゲーム) ,   
作品ジャンル:恋愛
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時

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