「濃紅と濃黄の中で」(柒) ページ34
「忘れるところでした。人間界でA殿と会う機会があったら伝えておいて欲しいことがあると、閻魔様から承っております」
「……閻魔様が? 何でしょう?」
僅かに緊張している様子で恐る恐ると聞いたAに、白無常は静かな声で伝言を伝えた。
「あの時は無神経なことを尋ねてすまなかった。非礼を詫びよう……と」
Aの瞳が揺れる。
是非汝の昔話を、わらわに聞かせてはくれぬだろうか?
人も妖も、そして神をも惑わす、世にも稀有な女陰陽師よ。
……もしや、そやつの名は。
閻魔とやり取りした光景が、音声付きで頭の中に浮かび上がる。
もう気にしていないつもりであったが、思い出すとズキリと胸が痛む。
閻魔の言う「そやつ」が賀茂忠行のことで間違いないのなら、忠行の死の謎を閻魔は把握していると受け取れる。
荒の到着がもう少し遅ければ、真相を知ることが出来たのかもしれない。
自分の為に迎えに来てくれた荒を責めるのは確実に御門違いではあるが、Aは少しだけそこを悔やんだ。
余程のことが無い限り、冥府へ再び足を踏み入れる機会はもう訪れないだろうから。
ああ、でも自分が生者の内に、師匠を殺めた妖の正体が知りたい。
でないと、報復を与えることが……。
「我々には何のことやら分かりませんが……A殿、閻魔様と御対面されたのですか?」
白無常がそう声を掛けたことで、Aの頭に上った血が音を立てて流れ落ちた。
更に頭を冷やす為に、Aは深呼吸する。
血の海に沈む焼死体を思い出してしまうと、強い理性で封じた復讐心が鮮やかに蘇ろうとするのだ。
それは堪らなく恐ろしいことだと、Aは自身を責めた。
「色々ありまして、一度だけ」
白無常に向かってAは薄っすらと笑う。
話すと長くなるようなことは説明を省いた方が手っ取り早い。
無理な詮索はしない無常兄弟だからこそ、Aは心置き無くそう思えた。
「まあ何を聞かれたのかは知らねーけどよ、閻魔のババアはそういうとこがあるよなー。ちょっと自分が偉いからってズケズケと物を言いやがって……」
仮にも閻魔に仕えている身でありながらベラベラと無礼を口にする黒無常を、白無常は咎めるような目つきで見据えた。
「貴方も閻魔様のことを言えませんからね、黒無常」
「ぬぐっ」
痛いところを突かれてしまった黒無常は情けない声を上げる。
それを見て、童子達はクスクスと笑った。
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時