「女と酒と片割れと」(陸) ページ24
事情を全て聞き終えた荒は現状に納得し、茨木童子に対し僅かに感謝した。
ただ茨木童子の腕にAが収められているという光景が非常に気に入らないので、睨みを止めるつもりは無かった。
その目つきを特に気にしていない様子の茨木童子は、突如愚痴っぽく溜息をついた。
「私には分からぬよ……女に溺れるという感覚が。一体どのような気分を味わえるのだ?」
女は災いの元でしかないというのが彼の持論であり、戦いの魂を忘れてしまうことより愛しい女の方が大事であるのは理解し難いこと。
「あの女……紅葉に惚れる前は、あんな体たらくでは無かったのだが……我が友をあれ程豹変させる激情とは果たして……」
ブツブツ呟きながら、茨木童子はしおらしく項垂れた。
荒は少し考えた後、茨木童子にこう告げる。
「お前も、そう想える相手を見つけたらどうだ」
「……!!」
目から鱗な茨木童子。
確かに、酒呑童子と全く同じ心境を経験すれば、彼の気持ちを少しは理解することが出来るかもしれない。
その発想は微塵も考えつかなかった、と茨木童子は強く何度も頷く。
「成る程、一理あるな。ふむ……」
そう言ってチラッとAに目をやるので、荒は危機感を覚えた。
「返せ」
鬼顔負けの剣幕で言う荒を見て、茨木童子は面白いものを見たかの如く破顔した。
「ははは、分かっているさ。君の女なのだろう? Aは」
茨木童子はその場で一旦Aを床に寝せてから、Aを上手に抱え直した後、荒に引き渡した。
Aを無事受け取り、ようやく荒の表情が軽く解れた。
「そうだな……もし娶るならAのような女が良いな……」
Aの寝顔を見つめながら、茨木童子は呟いた。
茨木童子の言う「Aのような女」とは。
甲斐性のある美人で、自分や酒呑童子と互角に張り合える霊術の腕前を持ち、更に何事にも臆さない勇気を持つ女のことである。
Aは例外としてだが、そうそういない類い稀な女性だろう。
「スサビよ。他にそういう女を知っていたら、私に教えてくれないか?」
「知らん」
「そうか、残念だ。では失敬」
あっさり言葉を返した後、茨木童子は颯爽と闇の中を駆け抜けて行った。
女性に求める理想が高い茨木童子、まだしばらく恋のことで悩む日々は訪れないだろう。
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時