【陰陽師】荒神と陰陽師の平安な日々【参】

「真似事蛙」(参) ページ17

「私の名は荒蛙だー！！」


そう力の限りもがきながら叫んだ。


「あっ」


Aの腕からスルリと抜け出した荒蛙は華麗に着地し、荒の前で身構える。


「ここで会ったのも何かの定め！ どちらが本物の荒神であるか白黒つけようではないか！」


あまりにも無謀だ、とAは思った。


「悪いことは言いませんから、止した方が良いですよ」


Aの親切な警告に、荒蛙は息巻きながら声を荒げた。


「黙れ女！ そこで見ていろ！ 運命の神はこの私であるという事実を、しかとその目に焼きつけるのだ！」


対して荒は、よく喋る蛙だなと言うような顔で荒蛙を見下ろしていた。


「では参るぞ！ 蛙式天ば」


三つの流星が荒蛙に直撃する。


想定通りの結末だった。


隕石の熱を浴び丸焦げな姿でピクピク痙攣しながら、荒蛙は仰向けに倒れ伏した。


Aは恐る恐る荒蛙に近づき、つんつんと人差し指で生死を確認した。


刺激を受け荒蛙はたちまち息を吹き返す。



「お……覚えてろよおおおお」



負け犬の遠吠え、いや彼の場合は負け蛙だろうか。


蛙らしい天晴れな跳躍力で、宮を囲う壁を飛び越えて逃げ去った。



「……行ってしまいましたね」


名残惜しげにしているAを荒は睨みつける。


Aは余程荒蛙のことが気に入ってしまったらしい。


本当に寂しそうにしょんぼりとしていたのだが、突如「あっ」と手を叩いた。


首を傾げる荒にAは理由を説明する。


「この前酒呑童子と茨木童子が、自分達の姿を真似た蛙に遭遇したと話してくれたのを、今思い出しました」


夏の都名物である花火が催される縁日でのこと。


酒呑童子や茨木童子の他にも、妖刀姫、閻魔、かぐや姫等々……一部の妖の格好を真似た蛙達がどこからともなく現れた。


その蛙軍団を引き連れた朧車を、晴明と共に退治したらしい。



「その時は何を言ってるんだと聞き流してしまいましたけれど」


「まともに聞いてやらなかったのか」


確かに蛙についてはどうでも良いかもしれないが、朧車が都に出現した話は結構重要そうではないか。


「ええ、まあ……仕事先に向かわなければならない道中でしたので」


どうもAは、あの悪鬼二人組には手厳しい態度を取ることが多い。


まあ気持ちは分からんでもない、と荒は思った。

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