「真似事蛙」(壱) ページ15
一仕事終えたAが都へ帰るべく、川辺沿いを歩いていた時のこと。
「Aさん」
Aの前に、傘を差した女性が現れた。
「雨女。こんにちは」
「あっ、こんにちは……」
雨女はきちんと挨拶を返すもどこか浮かない顔をしていたので、Aは不思議に思って首を傾げた。
「ちょっと、来て頂けないでしょうか……?」
説明するより見てもらった方が早い、ということでその場で要件は知らされなかったが、取り敢えずAは雨女の後を付いて行くことに。
「……いやお前さん、それちゃんと本物に許可を取ったんでゲロか?」
「本物に許可だと? 何を戯けたことを! 私こそが! 運命の軌跡を司る本物の神!」
雨女がよく佇んでいる橋のたもとで、二匹の蛙が揉めていた。
一匹はご存知磁器蛙、もう一匹は……荒の格好を真似た珍妙で不可解な蛙。
「予言してやろう! 都は滅びる運命にある! 命が惜しければ我が導きに従うのだ!」
「わあ、見事な再現度ですね」
Aは荒蛙の壮大な演説を無視し、ひょいと、少し大きめな人形を持ち上げるように抱えて捕獲する。
「なっ、何をする女! 下ろせー!」
「この子は一体……?」
抵抗する荒蛙を渾身の力で押さえ込みながら、Aは直ぐ側の磁器蛙に尋ねた。
「知らんゲロ……さっきからずっと何やら喚いてばっかりでな、ワシも雨女も迷惑してるんでゲロよ……」
戸惑いと呆れの混ざる絶妙な表情を浮かべながら、磁器蛙は答えた。
「はあ……成る程……」
改めてAは荒蛙をまじまじと見つめた。
夜空の星々にも勝るその瞳の輝きが、雨女と磁器蛙、そして荒蛙を釘付けにした。
Aは一呼吸置いてから、こう言った。
「この子は私が引き取ります」
「えっ!? 連れて帰るのですか!?」
驚愕する雨女に、Aは悪戯っ子のような笑みを見せながら頷く。
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時