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「伝記解放」(捌) ページ43

悲劇が起きたのは、息が白くなるくらい寒い冬の日のこと。


その日は御所の方で何やら騒動が起きているようで、やけにザワザワとしていた。


様子が気になりつつも、私は師匠の言いつけ通り霊符作りに勤しんでいた。


時期は師走なのだから、あちこち賑やかになるのは自然なことである。


その程度にしか思っていなかった。


だが女性の悲鳴が響いたことで、只事で無いのではと察する。


急いで部屋を出ると、真っ青な顔色の陰陽師様と鉢合わせになった。


咄嗟に「何かあったのですか」と聞いたが、陰陽師様は何故か答えるのを躊躇っていた。


悲鳴がまた響く。


陰陽師様の制止を振り切って私は声の方へ走った。



「……!」


何かを取り囲む貴族の方々や下働きの者々。


その隙間から暗赤色が覗き見えた。


漂う臭いから血だと判明する。


取り囲まれているのは、死体。


一体、誰の。


私は息を呑んだ。


落ち着けと自分に言い聞かせながら、人集りの方にそっと近寄った。




「……し……っ……師匠……」




視界に飛び込んできたのは、切り裂かれた体から溢れ出た血溜まりの中に沈んでいる師匠の亡骸だった。


変わり果てた師匠の姿を目の当たりにし、私は崩れ落ちた。


顔や首、腕や足首には火傷のように爛れた生傷が目立ち、狩衣も焼け焦げて黒くなっている。


伏し目がちに開かれた虚ろな瞳が、無念だと語り掛けているように感じられた。



陰陽師様が私の名を叫んだが、私の耳には届かなかった。


まるで悪い夢を見ているような気分だった。


不快な浮遊感が私の体を支配した。


込み上げてくるのは、涙と、吐き気。



夢なら覚めて欲しい。



夢で無くても覚めて欲しい。



これが現だなんて認めない。



ああ。



どうして。



どうして。



師匠。



師匠……。

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設定タグ:陰陽師 , 陰陽師(ゲーム) ,   
作品ジャンル:恋愛
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イズモ(プロフ) - 蒼羅さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります(о´∀`о)荒様はかっこいい!!笑 (2018年6月20日 8時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
蒼羅 - 荒様格好いい!!この小説読んで荒様のイメージが変わった(´V`)♪続き楽しみにしてます!!更新頑張って下さい!! (2018年6月19日 22時) (レス) id: 6ae6ae8c8c (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 美八さん» ありがとうございます!!もう少しだけお待ちください! (2018年6月14日 12時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
美八 - 私は、この続きが気になっているのでお待ちしております! (2018年6月14日 7時) (レス) id: 008655f029 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イズモ | 作成日時:2018年5月13日 21時

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