「恩寵」(弍) ページ33
それは本当に一瞬の出来事。
乱暴に肩を押されて布団に沈められ、Aは息がつまりそうになった。
Aの耳の横に手をつき、覆い被さるような体勢の荒が、硬直するAに艶っぽい声を浴びせる。
「いい加減認めろ」
「荒、様」
「私がお前のことをどう想っているのか……本当は気がついているのだろう?」
Aは目を見開く。
どうか言わないで、と心の中で強く念願した。
だが荒はもう、隠したり誤魔化したりするつもりなど無いようだ。
荒がゆっくりと肘を曲げていったことで、距離は段々と縮まってゆく。
見目好い男が眼前まで迫っており、Aの心臓が跳ね上がる。
「お前は良い女だ……」
渇望するような余裕のない表情。
切れ長で鋭いが温かみを含んだ瞳。
瑠璃をそのまま埋め込んだかのように美しい、深遠の瞳に吸い込まれてしまう気がして、ギュッとAは目を固く瞑る。
互いの息遣いがあまりにも近すぎる。
怖い。
恥ずかしい。
どうにかなってしまいそうだった。
Aは咄嗟の判断で、投げ出された右腕の人差し指を動かす。
来いと指示を受け召喚された紙人形が、二人の間に風の如く割り込む。
紙人形を避ける為に荒がすっと身を引いた隙に、Aはさっと体を起こす。
守るように自分の体を抱き締めて震えていた。
「……悪かった」
怯えているAを宥める為に、再び頭に手を伸ばす。
だが拒まれたという事実が、思いの外荒の胸の奥深くに突き刺さってしまい、その手は空中で止まる。
こんなにも触れたいのにもし振り払われてしまったら、きっと立ち直れない。
「……!」
空を切る手を不意に取ったのは、Aの両手。
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イズモ(プロフ) - 蒼羅さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります(о´∀`о)荒様はかっこいい!!笑 (2018年6月20日 8時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
蒼羅 - 荒様格好いい!!この小説読んで荒様のイメージが変わった(´V`)♪続き楽しみにしてます!!更新頑張って下さい!! (2018年6月19日 22時) (レス) id: 6ae6ae8c8c (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 美八さん» ありがとうございます!!もう少しだけお待ちください! (2018年6月14日 12時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
美八 - 私は、この続きが気になっているのでお待ちしております! (2018年6月14日 7時) (レス) id: 008655f029 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年5月13日 21時