【陰陽師】荒神と陰陽師の平安な日々【弍】

「めぐしき女陰陽師」(陸) ページ27

「人間は皆、脆い生き物だ」



Aの抵抗が止まる。



「逃げ場を持たぬ人間はいずれ潰れる」



荒はAから目を逸らさない。



「その時、誰がお前を救うのだ」



Aの目を逸らさせない。




「……何を仰られたいのです」


やや毒気を抜かれた様子のAが問う。


荒は変わらぬ強い口調で、言い聞かせるように言い放つ。


「忍耐という枷に縛られ苦しみ続けるのなら、死人のことなど忘れてしまえ」


Aは絶句した。


「……どうして、そう薄情なことを仰られるのですか。忘れたくないのに。忘れてはならないのに」


Aは今は亡き師匠を指標とすることで、苦しく困難な道を、地に足つけて歩くことが出来た。


逃げるな。


立ち向かえ。


強く生きろ。


記憶に残る師匠の言葉に勇気づけられ、どんな逆境にも耐え抜いてきた。


……その糧を忘れてしまえと。


そう言う貴方の方がよっぽど非道だと言いたげに小刻みに震えているAに、荒は突如優しく尋ねた。



「人だろう、お前は。感情を押し殺してまで強く生きる必要があるのか？」



Aは痛切そうに眉を潜めた。


「私は……強くなくてはならないのです」


弱々しいのに意志の込められた声だった。


「強くなければ、陰陽師として生きる資格を失ってしまう……そうなったら私は、育ててくださった師匠に合わせる顔が……」

「めぐしき女陰陽師」(柒)→←「めぐしき女陰陽師」(伍)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す