「憂いな盆休み」(陸) ページ20
師匠の墓は、ここから然程遠くない。
走って行けば、完全に日が暮れてしまう前に辿り着ける場所にある。
Aは急ぎ足で山の奥へ進んで行く。
四方八方からひぐらしの鳴き声が響いてきた。
そのどこか切なさを感じさせる鳴き声が、Aの心を更に杞憂にさせる。
墓地に通じる鳥居と長い階段が見えた。
階段を駆け上がり、やっと到着する。
立派な墓石が一つ。
周囲は鬱蒼とした原始林に囲まれており、よく耳を澄ますと奥の方から湧き水が溢れ出る音が聞こえる。
墓は静かな場所が良い、という師匠の願いによって、このような場所に安置されたのだ。
敬愛する師匠が眠る墓石の前で手を合わせた後、Aは四体の紙人形を召喚する。
その内二体の紙人形はそれぞれ行灯と箒を持っていた。
行灯は薄暗くなりつつある辺りを照らす為で、箒はお墓の周りを綺麗に掃き掃除する為だ。
残りの二体の内一体には雑草むしりを命じ、最後の一体には水を汲ませに行く。
そしてAは、墓石を乾いた布で丁寧に磨いた後、柄杓でそっと水をかけた。
一通りの手入れが完了した頃には、既に日は西の山の向こう側へ沈んでいた。
Aは墓石の側で座り込み、抱えた膝に顔を埋めた。
とても静かだ。
風の音と虫の音がする。
……明日も早いのだから、そろそろ帰らねばならない。
でも出来ることなら、ずっとここにいたい。
もう少しだけ、もう少しだけ。
そうぼんやりとしている内に時間は進んで行く。
四体の紙人形が、Aを心配そうに取り囲んだ。
一体の紙人形が「もう帰ろう」と言うように、ちょんちょんとAを突いて催促しても、Aはその場を動こうとはしない。
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イズモ(プロフ) - 蒼羅さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります(о´∀`о)荒様はかっこいい!!笑 (2018年6月20日 8時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
蒼羅 - 荒様格好いい!!この小説読んで荒様のイメージが変わった(´V`)♪続き楽しみにしてます!!更新頑張って下さい!! (2018年6月19日 22時) (レス) id: 6ae6ae8c8c (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 美八さん» ありがとうございます!!もう少しだけお待ちください! (2018年6月14日 12時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
美八 - 私は、この続きが気になっているのでお待ちしております! (2018年6月14日 7時) (レス) id: 008655f029 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年5月13日 21時