想いの終着点II (ページ3)

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物好きな人ページ3

放課後、部活で賑わう校内の階段を駆け上がる。

四階の人気のない隅。

私達美術部か活動している美術室は、そんな場所に静かに佇んでいた。

澄んだ青を保つ空の向こうから夕焼けが迫ってくる。

この美術室の窓から見える空の景色が、私は一番好きだった。

描きかけのキャンパスの前に座る。

絵の具で汚れた筆とパレットは、新品のそれらとは違った美しさと奥深さを持っていた。

『(…よし)』

筆で空をキャンパスに刻む。

青空が夕景に染まりゆくこの瞬間。

何時までも見ていたいと思う景色。

絵を描きたい、そう思ったのは随分昔のことだ。

小さい頃は手にクレヨンを持って、白い紙に様々なものを書き殴っていたことを、よく覚えている。

花、鳥、空、日常の小さくて、でも幼心には強く響いた瞬間を自分なりに描く時間が、今も昔も堪らなく楽しい。

目に映るものを描き出す。

幼い頃のそれが、私にとって初めての自己表現だったのだろう。

「………すご…」

『…？』

背後に在るドアの向こう側から、声がした。

此処は美術部員以外は授業でしか来ない。

おまけに先輩方は休み。此処に用があるのは私だけの筈だが。

気になって振り向くと、特徴的な銀髪が見える。

『…えっと』

不破「…いや、友達からAさんが美術部だって聞いて」

不破「どんなの描いとるんやろ…って気になっちゃって」

『はぁ…』

わざわざその為だけに此処まで来たというのか。

案外物好きなのかもしれない。

不破「それにしても此処から空ってこんな風に見えるんやね」

不破「気づかんかったわ〜…」

『授業中だと、そんなに空って見ないですし』

『今ぐらいの時間帯に此処に来る人が少ないので』

『知らない人が大半だと思います』

不破「へぇ……」

アメジストを嵌め込んだような、そんな瞳だった。

窓の外の空を見て、心なしか煌めいているような気がする。

やっぱり、物好きな人なのかもしれない。

「ふわっちー！！そろそろ帰ろーぜ！！」

不破「あっ、やべ」

不破「じゃあ俺はこれで…部活邪魔しちゃってゴメン」

『いえ』

不破「じゃあまた明日〜！！」

そう言って、彼は友人と共に元気よく立ち去っていった。

“また明日”

そうクラスメートに最後に言われたのは、一体何時だったっけ。

ちょっと懐かしい記憶を思い出しながら、私はキャンパスに目を戻した。