想いの終着点II (ページ19)

今日:3 hit、昨日:10 hit、合計:18,909 hit

取る手の主はページ19

始まった借り物競争は、それはもう大盛況だった。

選手が立つ度、走る度、何をするにも大きな歓声が聞こえる。

けれど、会場はまだ完全に盛り上がりきってはいないと言えるだろう。

その理由はクラスメートの話を聞く限り、主に二つ挙げられる。

一つ、定番かつ最注目のお題である「好きな人」がまだ出ていないこと。

二つ、校内でも有名な「不破湊」の出番がまだであること。

クラスの女子生徒達の話題は、出場選手よりもそれで持ち切りだった。

「誰に借りに行くんだろ〜！！」

「ふわっちのお題が、もしも好きな人だったら……！」

例のごとく悲鳴が上がる。

ああ、やっぱり遠い人だなぁ、と今更ながらに感じた。

そしてそれよりも私の頭にあるのは、先程私のところに来た男子生徒のことだった。

今現在走っている選手の中に彼の姿は見えない。

『(結構後ろの方なのかな)』

ぼんやりと競技を眺めていると、最後の選手がゴールテープに辿り着いた。

その瞬間歓声が上がり、観客の興味は直ぐに次の選手に移る。

そして、一際大きな歓声が上がった。

『…あ』

『(不破君…と、あの男の子…)』

偶然だろうが、彼らの出番は同じだったようだ。

あの男の子のお願いがただのからかいやいじりの類で無ければ、彼は私のところに何かしらを借りに来るのだろう。

手元にある、水筒やプログラムの用紙が入ったミニバッグの中身を物色する。

大したものは入っていなくて、お題に沿った物が無いかもしれないから申し訳ない。

膝の上のバッグを下ろして、選手が走り出すのを待つ。

今日一日だけで数え切れない程耳にしたピストルの音がした。

「ふわっち誰に借りるのー！？」

「私、色々持ってるから貸せるよ！」

「あ、抜け駆けずるい！！」

『(大人気だな…)』

湧き上がる女子生徒達を遠目に、私は彼が来るのを待つ。

不破「＿＿＿＿＿＿Aちゃん」

『…え』

『なんで……』

不破「悪いけど、俺と一緒に来て？」

彼の声は穏やかだけど、何処か重さを感じさせる声。

気付けば私は彼に手を取られ、グラウンドを駆け抜けていた。