想いの終着点II (ページ18)

今日:9 hit、昨日:1 hit、合計:18,905 hit

印象ページ18

『何か？』

「その、借り物競争のことなんだけど、」

口ぶりから察するに、彼は不破君と同じく借り物競争に出場する選手なのだろう。

だが私は借り物競争には特に何の関係もない。

疑問に思いながら話を聞く。

「も、もし良かったら、俺と来てくれませんか！？」

『え？』

『(まだ何を借りるかも分からないのに…？)』

さらなる疑問が浮上するが、目の前の彼は至って真剣な様子だ。

それを否定するのも失礼な気がする。

かと言って「はい」と言ってしまうのも、それはそれでどうなのか。

『…必ず、とは言えませんけど』

「！ありがとう！！！」

私の声を聞くなり、輝かしい笑顔を見せて彼は足早に去っていく。

どこかホッとした様子も見えたけれど、返答としては及第点らしい。

何にせよ、変ないざこざにならなくて良かった。

名前くらいは聞いておけば良かっただろうか。申し訳ないことに、私は彼を知らない。

一方の彼は私を知っていたようだが…一人考えていても答えは出ない。

私のクラスのテントに戻り、暫し競技を観戦する。

生徒の保護者やその弟、妹などが出場する、微笑ましい競技が行われている。

『(…かわいい…)』

“ほっこり”という表現が最適だろう。

これ以上無い平和な光景だ。

自分や友人の弟妹を力強く応援する声も響き渡る。

元々疲労していたのもあっただろうが、予想以上に頬が緩んだ。

するとどうだろうか。

気付けばクラスメート達にガン見されていた。

『(…そんなに変な顔してたかな)』

「えっえっ…」

「見た………？」

「めちゃくちゃ笑ってた……」

皆の様子に少し、いやかなり心の中で萎縮していると、数人に詰め寄られる。

「Aさんって、そんな顔も出来るの！？」

「私もっとこう、絶対笑わない！的なやつかと思ってた…」

「それな！！」

「…てっきり見下されてるものだと……」

『そんなことは…』

無い、と言おうとした声も遮られ、私を置いて皆がワイワイと騒いでいる。

すっかり混乱している私が助けを求められる相手といえば、彼だけ。

神頼みをするような気持ちで、少し離れたところに居る彼を見る。

すると、彼はにっこりといつもの可愛らしい笑顔を向け、ひらひらと手を振った。

要するに、助けてくれる気は無いらしい。

若干落胆して俯くと、競技の終了を告げるピストルが鳴った。

プログラム上では、次は借り物競争。

一気に現実に引き戻されたような、そんな気がした。