想いの終着点II (ページ17)

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踏み越えてページ17

理由は分からない。

ただどうしてか、彼の姿は頭から離れなかった。

以前もそんなことがあったような気がして、自分がどこか変なような気がする。

『(そう考えているうちに、あっという間に私の出番…)』

スタートラインに立つと、少し緊張する。

足元を見つめながらピストルの音を待っていると、乾いた音が来るまでの時間は思ったより長かった。

数分が数十分に感じられる中、やっと聞こえたピストルを合図に走り出す。

そしてその直後、声が聞こえた。

不破「Aちゃん！ファイトー！！」

彼の声だった。

聞き間違えかと一瞬だけ耳を疑ったが、視界の端にアメジストのような紫が見えたから。

きっと聞き間違えではない。

それに背中を押されて、駆ける足が軽くなったように錯覚した。

それからの、障害物の内容は正直よく覚えていない。

ゴールに辿り着くことに必死で、無我夢中で走っていて。

過ぎ去っていく景色があったことくらいしか覚えていない。

周りが見えないくらい愚直になったのは、絵を描く以外では久しぶりのことだった。

その甲斐あってか、順位は見事に一位。

私は驚くことしか出来ず、突っ立ったままでいた。

不破「Aちゃん超速くない！？めっちゃかっこよかった！」

『…あ、ありがとうござい、ます……』

不破「あ、そだ」

不破「はい、これスポドリ！水分補給しっかりしてねぇ」

『いや、そんな…悪いですから。今財布持ってないですし…』

不破「ん〜…俺としては遠慮してほしくないんやけど…」

不破「熱中症も心配だし、ね？」

『………はい』

若干の圧を感じ、厚意に甘えてそれを受け取る。

これから暫くは、私も彼も出番はない。

大人しく涼しい日陰から観戦していよう、と思ったところで声をかけられた。

「え…っと、Aさん！」

『…？』

不破「んにゃ？Aちゃん、知り合い？」

『いえ…』

「その…うーんと……」

不破「…俺、邪魔者っぽいから抜けるね？」

『え？』

不破くんは、いつもと少し違う笑顔を浮かべて去っていこうとした。

そして去り際に私の右肩に手を置いて、“後でね”と小さな声で囁いた。

状況の理解が出来ず困惑するが、取り敢えず目の前の知らない彼は話があるらしい。

ひとまずそれが先だろうか。

不破くんの後ろ姿から目を逸し、私は彼の話に耳を傾けた。