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『…っ重岡くん!』
10分で着くなんて言ったけど、会社の最寄りから重岡くんのいる駅まで軽く15分はかかるから、気持ちばかり先走ってしまって。
電車のスピードにすらもどかしさを感じつつ、やっと駅について重岡くんの姿を探せば、街灯の少ない薄暗い道の柵に寄りかかってじっとしているのを見つけた。
「あ…藤井、」
『ほんっまに、何してんすか…』
「ごめ、時間経ったらちょっと落ち着い……っわ、」
泣き腫らした目が痛々しくて、自分でも気づかないうちに堪らず重岡くんの腕を引いて、力を込めて抱きしめた。
「ちょ、ふじ…」
『……大丈夫っす、もう俺が来たんで、我慢せんといて』
「……っ、ん、」
初めて腕の中に収めた先輩の身体はやっぱり逞しいけど、思っていたよりも小さかった。
「…悪い、なんか、藤井の顔見たら安心して…っ」
『ええですよ、…俺見てへんから』
「……っ、あり、がと」
再びボロボロと涙が零れ始めたのかスーツの肩口が濡れてしまったが、そんな事は気にならず、ただただ重岡くんの背中をさすって落ち着けていく。
こんな時でも、自分の背中にぎゅっとしがみつかれる感覚にとくっと胸が鳴ってしまう自分がいて。
『…なあ、重岡くん、あつい』
「あ、ごめ、離れ…」
『ちゃうくて。熱あるやろ?』
身体を離して額に手を乗せると、案の定。
『待っ……やばいって!ほんま何してんねん!』
「いや、そんな怒らんでも…」
『怒るやろ!無理すんなって言ったのに…』
微熱どころではない熱さを感じて、涙と汗でぐしゃぐしゃになっている先輩を、ひとまず縁石に座らせて。
『家近いんですよね?掴まってもらっていいんで、送ります』
重岡くんの足元にあった大荷物を抱えて「案内してください」と言うも、何故か微妙な反応。
何があったのかは、分からない。
分からないけど、何となく帰れない理由があることは察した。
『…タクシー呼ぶんで、俺ん家行きましょうか』
「え…ええの?」
『重岡くんが良いならですけど』
「…うん、ごめん、ちょっと甘えさせて」
思わぬ展開に、下心が一切無いといえば嘘になる。
それでも、今はただ、この人をどうにかして守りたい。
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ナ(プロフ) - ゆうみさん» ゆうみさん、初めまして。とても嬉しいコメントをありがとうございます!少しずつ更新していきますので、最後まで見守って頂けたら有難いです。 (2021年7月11日 23時) (レス) id: db537413ba (このIDを非表示/違反報告)
ゆうみ(プロフ) - はじめまして!すごく面白いです。2人の柔らかい空気が伝わってきて読んでてほっこりします。続きも楽しみにしています♪ (2021年7月11日 1時) (レス) id: bea5fb83fd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ナ | 作成日時:2021年7月1日 16時