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1時間目から体育の授業が組まれていたため
運動着を着て、昨夜の大雨で
乾ききっていない道を
とぼとぼと歩いていれば。
「お前さ、」
「ん?」
はあ、とやけに重そうな
溜め息と共にこちらへ
視線を向け隣を歩く彼。
こんな怖い表情をしているのに
この前後輩の女の子に
告白されたらしい。
意外とモテるこいつは
さらりと黒髪を風になびかせて
いつものように小言をこぼす。
何を言っているのか
わからなかったので
はいはいはい、なんて
適当に聞き流していれば
どこからか王子と呼ぶ声。
見上げれば、教室の窓から
こちらを見下ろす数人の女の子。
はいはいはい。
「(朝から元気だね。)」
「お前意外とそういうところは
冷めてるよな」
笑顔を向けたつもりが
隣からは見透かしたような小言。
「なんだよ、妬いてるのか風介」
「陽に妬く事なんて
ひとつも無いけどな」
「そんな強がらなくても、」
「………いや、本当に無い」
数秒の間を置いて聞こえた声に
僅かな苛立ちを覚えるも、
体育委員の準備に呼ばれたからと
走って行ってしまった。
おい、置いて行くなよ。
風介と呼ばれた彼とは
長い付き合いで
ちゃんと俺を名前で呼ぶ友達。
王子と呼ばれる事に違和感など無かった。
その呼び名は自分の
事だとよくわかっていたし。
今は違う意味で
そう呼ばれているのだろうけど。
そういえば、棗ちゃんは俺の事
なんて呼んでいたっけ、
なんて、ぼんやりと思い返してみるも
桜田と、さらっと呼ばれた記憶のみ。
そもそも関わりが少ないせいで
人を名前で呼ぶところを
見たことが無い。
とぼとぼと歩いていれば
「陽、」
柔らかな風に乗って聞こえた声。
きっと空耳だろうが、
こんな優しい声で
呼んでくれたら、なんて。
「(考えすぎだな、
きもいなあ俺、)」
ふと見上げた教室。
大きな瞳がこちらを向いていた。
あからさまに逸らされたそれに
頬が緩んでしまう。
俺を変質者呼ばわりするくせに
本当に変質者にしきれない、
そういうところだよ、
棗ちゃん。
その後合流した風介が
不思議そうな顔をしていたけれど
そんな事、今はどうだっていいや。
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作者名:Ritz | 作成日時:2013年11月6日 22時