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パタパタと本にかぶった埃を

落としていれば、


「あ、吉野」

「?はい、」


先生が紙をめくる音と、

雨音が響く室内に

私を呼ぶ低い大人の声。


僅かにどきりとしながらも

声の主へ視線を向けると

憂鬱そうな顔。


「今日会議あんの忘れてたわ。」

「え」

「すまん、図書室の戸締りよろしくな」


そう言い残すと、

読み進めていた分厚い本と

他に何冊か分厚い本を抱え

重そうな足を進めた。


その様子だけでも憂鬱そうだ。


「(すごい嫌そう)」


ひとり残されると

途端に雨音が大きく聞こえる。

掃除は一旦休憩、

と近くの椅子に腰掛ける。


そういえば今日

傘、持ってきたっけ

なんてぼんやり考えていると


「棗ちゃん」

「!」


視界の端から顔を出す人物。

ゆるくウェーブのかかった髪を

ふわり、と揺らし

私と目が合ったことに嬉しそうに

顔を緩ませた。


「びっくりした?」

「全然」

「はは、残念」


どかりと目の前の椅子に腰掛けると

テーブルに肘をつき

真っ直ぐこちらを見つめる。

その無駄の無い一連動きに

大げさに眉を寄せた。


無意識に溜め息が出る。


「桜田さん」

「、え」


ぽろりと覚えたての名字を

口にすると

なんで知ってるの?と

言いたげな顔。


「先生が教えてきた」


私が知りたがったのではなく、

あくまで勝手に教えてきた

を強調して。


「ああ、馬淵先生か」

「先輩だったんデスネ」

「そ」


ちら、と目を向けると

何が嬉しいのか

また嬉しそうに顔を緩めている。


こんなだらしない表情も

こんな顔が整っていれば

周りも放っておかないんだろうな。


ここ最近を思い返せば

よくこの人物と顔を合わすが

私はこの人の事を

何も知らないんだな。

知っているのは変人、とだけ。


「僕のこと知りたくなった?」


心を見透かしたような台詞に

どきりとする。


「全然」

「僕は知ってたよ、棗ちゃんの事」

「は」

「2年3組、吉野棗ちゃん、

本が好きで、苦手な教科は数学

あと…」


変人、に次いで

変態の異名が付きそうだ。


聞いてられなくなって席を立つが

彼は構わずストーカー紛いな

事をつらつらと口にし並べていく。


「からかうと反応が可愛くて、

眉を寄せて嫌そうにする、あとは、」


相手にするのをやめようと

再び掃除にとりかかった。

大きな本棚が並ぶ

一角へと足を進めると

彼の声が僅かに遠くなっていく。


本を取ろうと手を伸ばす。

と、


ドガン!

ゴロゴロ

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作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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作者名:Ritz | 作成日時:2013年11月6日 22時

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