9：約束 ページ11
それからというもの、初めて会った場所で雑談を交わす仲になった。
時間にしてみれば、連日、夕方のたった十数分ではあるが、だんだんと遠慮がなくなってきた。
最近はあちらから手を握ってくれることもある。痒みが落ち着くとか、云々。
.
.
.
公園からの帰り道、久々に雨が降っていた。まだ夕方なのに薄暗く、雨を降らす曇天をいつもの橋の下から眺める。
先ほどまでは晴れていたのに。
たぶん夕立だろうから、もう少し雨足が弱くなってから帰路につこうと考える。
ここにはいつも転弧さんが先にいるが、きっと彼も、雨に降られてまで来ないだろう。
ポシェットを抱えて定位置に座り、雨音に耳を傾けていると、パシャリと水の跳ねる音がした。
水たまりを、人が歩くような。しかし、傘が雨をはじくような音はしない。
雨の匂いが濃くて薄くなってはいるものの、最近嗅ぎ慣れた匂い、気配、そして殊更希薄ではあるが、血の匂い。
音と匂いの、その方向を向いて一瞬固まった。
来ないだろうと思っていた転弧さんが、白くも生々しい「手」を持って、びしょ濡れで佇んでいた。
「……なんだ、遥も来てたんだ」
「いや、私は雨宿りで……転弧さんこそ、こんな天気で、なぜ雨具もなしに来ているんですか」
「気づいたら、ここまで来てた。別に、来る予定じゃなかったけど」
呟くように言って、転弧さんは私の隣へ腰を下ろした。髪の毛や指先から、ぽたぽたと雫が滴り落ちる。
「随分濡れてますね……それと、怪我されていませんか？」
「怪我？……ああ、血の匂いがするのか。僕は怪我してないから、大丈夫」
僕“は”。
含みのある言い方だが……気にしないことにしよう。
ポシェットから濡れなかったハンカチを取り出して、転弧さんの濡れた前髪から顔を拭っていく。どうにも濡れ方がひどいので気休め程度だが、無いよりは幾分かマシなはずだ。
「……なぁ、遥」
「なんですか？」
いつかのようにされるがままの彼に呼ばれ、掌がこちらに向けられる。
それは子供の、小さい掌の割に、妙な威圧感を放っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 831人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
らべんだー - いつも楽しませていただいてます！アリババ君は出てくるのでしょうか、、出てきてほしい！です！ (2020年5月6日 1時) (
レス) id: e9a4cf0eda (このIDを非表示/違反報告)
AYAAYA(プロフ) - 握力で測定器へし折りそうだねー (2019年6月22日 17時) (レス) id: df90ade64c (このIDを非表示/違反報告)
李鈴(プロフ) - あぁぁ、最っ高！こういうの欲しかったんです！ありがとうございます(><) (2019年2月12日 9時) (レス) id: ff3f8f1243 (このIDを非表示/違反報告)
操菜 荘椏(プロフ) - 続きが気になります！頑張ってください！ (2019年1月8日 22時) (レス) id: 973a3c6c76 (このIDを非表示/違反報告)
やっかちゃん(プロフ) - 夢小説読みまくった私にとってはそんなに違和感は感じないですが、作者さんの好きな風に書くものですから、今考えてるという案で全然問題ないと思いますよ！最後に、ヒロアカの推し全く一緒でした嬉しいですいつも楽しく読んでます更新楽しみにしてますね！ (2018年11月6日 23時) (レス) id: 37cb2170f5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：灰猫 | 作成日時：2017年8月28日 6時
