007 ページ8
.
どくん、と心臓が大きく脈打った気がした。次の瞬間どんどん人間が持っているはずの体温を失っていくような気がする。
視線を逸らすことは出来なかった。いつもはすぐ出来るのに。受付嬢の私に連絡先を強請ってくる男の視線も避けられるし、ヨリからの友情とは違う意味合いの視線も避けられるし、何でも避けることは出来たのに。
ああ、そうだ。昨日のベクちゃんの態度をヨリに謝らなくちゃ。そう思ってみても私は視線を逸らせないまま言葉を発する。
『･･････ヨリ、昨日はごめんねベクちゃんが』
「え？･･･あ、彼氏さん？全然気にすんな！」
『ううん、ごめん』
「彼女が酔って他の男と帰ってきたらそりゃああなるって〜理解出来るぞ〜」
『へえ』
「それにAの彼氏やっと見れたし！イケメンだな！いいと思うぞ！･････････A？」
「どこ見てんの･･･？」
そう言ったヨリはその後の言葉を続けなかった。ヨリも見てるのかな、気付いちゃったかな。私がかわいそうな女だって。
視線の先のベクちゃんは笑っていた。
その隣には知らない女がいた。女はベクちゃんの腕にその華奢な腕を巻き付けていた。
何か話しているようだ。女はベクちゃんを見上げていて、ベクちゃんはその女より高い身長だから首を少し傾けて女を見つめていた。
昔、私に向けていてくれた目だった。
「･･････A、おまえ、」
『･･･』
ヨリが私の名前を呼んだ。酷く優しい声で。それでもヨリの方を見ることは出来なかった。気付かれたことに恥ずかしくてじゃない。そんな事はもうこの際どうでもいい。
ただ、私は、そのベクちゃんの目に、全て持っていかれたのだ。
懐かしい、ずっとずっと、私に向けられていたはずのあのベクちゃんの視線。
ベクちゃんが他の女がいることは、嘘が下手なベクちゃんのお陰で分かってはいたけど、今まで本当のその場面を見たことはなかった。初めてだった。
他の女がいることを確証づけることは、初めてだった。
「A」
『･･････ヨリ、』
『昨日ね、一つ目を捨てたの』
「･･･え？」
『それでね、今日は朝に二つ目を捨てたの』
「･･･」
『三つ目は何がいいと思う？』
『それとももうまとめて捨てようかなあ、』
『･･･ううん、だめ、気付かないようにしなきゃ。ベクちゃんがそうしてるみたいに』
「･･･A」
『最後まで気付かないように』
『それで最後にベクちゃんを捨てるの』
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
ラッキーアイテム
革ベルト
おみくじ
おみくじ結果は「末凶」でした！
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1101人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りん(プロフ) - 百川さん出来れば、消さないで欲しいです。思い出の物とその時の気持ちを捨てるって難しいですね… (2020年2月6日 20時) (
レス) id: 1dd6c0734d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 仕方ないです。少なくとも、時間がかかりますね。アイドルが結婚これは、永遠の課題。 (2020年1月19日 20時) (レス) id: 1dd6c0734d (このIDを非表示/違反報告)
かおる(プロフ) - すごく分かります！またお会いできることを願っております！ (2020年1月18日 23時) (レス) id: a54c710a34 (このIDを非表示/違反報告)
志乃(プロフ) - 来年の更新楽しみにしてます！ (2019年11月7日 1時) (レス) id: b8cc8aaaa6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆな - こんにちは。 来年まで楽しみにしています！ (2019年11月6日 8時) (レス) id: c3cca9217a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：百川 | 作成日時：2019年4月14日 0時
