39:葛藤 ページ39
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任務帰り、喉が渇いたので潔高にコンビニに寄ってくれと頼み、どうせなら少し休んでいこうと店の前で佇む。
「ん、ブラックでよかったか?」
「はい、ありがとうございます……あの、瀬川さん」
「何?」
「私、この仕事向いてるんでしょうか」
「…なんで?」
「私達の仕事は人助けです。ですが、学生を危険な現場に送り出して、剰え一生残る傷を背負って帰ってくる彼らを見ると、どうしても考え倦むところがあるんです」
悠仁の件のことだろう。潔高は昔から慈悲のある奴だったが、精神面は決して強いとは言えない。本人もそれをわかっていて、補助監督への道を選んだ。
補助監督は戦闘が禁止されている。だから必然的にサポートに回ることになるし、仕事を続ければ自分よりも若い呪術師を見送ることも、時には凄惨な姿になって帰ってくる姿を見ることだってある。それは時に、己の無力さを痛いほど感じさせるものでもある。
「オマエの言うことはよくわかる。教師にも似たようなことはあるからな」
「……」
「生徒同士のいざこざ、年頃の悩み、親や教師への嫌悪、失敗、挫折、後悔……救ってやりたくても
「……えぇ」
「もちろん解決してやることもできる。その気持ちも大切だ。限度はあるがな。でも、全てを解決してやることが救いになるわけじゃない。大切なのは、自分にできることを自覚してやり遂げること」
俺だって、伊達に教師を続けてたわけじゃない。
自分にはなかった、できなかった失敗や後悔をする姿は見ていて辛いものもあるし、理解できず何もしてやれない自分もいた。
だからといって自分はこの仕事に向いていない、辞めたいとは思わなかった。結局自分にできることはこれだと見つけること、そしてそれを全力でやり遂げることしかできないのだと。全てを変えようだとか、解決しようだとか、そういう希望を持つのもいいだろうが、年を重ねれば嫌でも自分の限界に気づくことになる。
だが、悩むのはいい。
悩むということは、向き合っているということ。
そこには大人も子供も関係ない。
「オマエのその葛藤は必要だ。これから先、補助監督を続けるためにもな」
「……すみません。瀬川さん」
「謝るくらいなら感謝しろよ。後輩は先輩に甘えとけ」
「…ありがとうございます」
そう言うと潔高は握りしめていたコーヒー缶をぐいと飲み干して、先程より幾らか落ち着いた表情で微笑んだ。
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朝茶(プロフ) - もぶさん» ありがとうございます!そう言っていただけるとますます頑張れます!これからもよろしくお願いいたします!! (2022年9月19日 21時) (レス) @page20 id: 6d4df1d25a (このIDを非表示/違反報告)
もぶ(プロフ) - この作品すごい好きです!更新頑張って下さい!! (2022年9月19日 15時) (レス) @page19 id: 38a56b994f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無季 | 作成日時:2022年7月9日 21時