慣性モーメント (ページ7)

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Aside

「俺、子供の頃ちょっとだけこっちにいたことがあって

そん時通ってた塾の帰りのバスで

いつもAさんのことかわいいな〜って見てた」

『へっ？』

か、かわいい？

そんなの言われたことないから勝手に顔が熱くなってくる

「でも、Aさんが降りるバス停にはいっつも、その…」

そういって壱馬の方をチラッと見る吉野くん

「壱馬」

見るからに不機嫌な態度の壱馬

なんてそっけない自己紹介なの…

「壱馬がいて、子供ながらにちょっと嫉妬してたんだよね笑」

『でも話したことなかったよね？何で私も見たことあるんだろ？』

「お前、“窓際のやくそうくん”やろ？」

「え？」

あっ！そうだ思い出した

小学校の時、水泳の習い事の帰りのバスで塾の前のバス停から乗ってくる「窓際のやくそうくん」

話しかけはしなかったし名前も知らなかったけど、

いつも一番後ろに乗ってるわたしの反対側の窓際に座るあの子のルックスに水泳で疲れた体も回復しちゃうから

頭の中で勝手にそう呼んで、壱馬にも報告してた

『そうだ、やくそうくんだ！！

私も水泳の帰り、吉野くんのこと密かに見てたの！

かわいい顔してるなって』

「かわいい、かぁ〜」

かっこいいがよかった…って言う吉野くんはやっぱりかわいいなって思った

じゃあ私たち、一回も話したことないのにお互いのこと見てたってこと？

…それってなんか

『運命みたい…』

そう呟いた私の声を掻き消すように壱馬が言った

「じゃ、俺らこっちやから」

交差点で吉野くんと別れる

『また明日学校でね！』

「うん、また！」