恋人契約【黄】

𝟗 ページ16

「……どんな人もなにも、ただの平凡な人間ですよ。岩本さんと違って芸能人でもなんでもない、そこら辺にいるだけの一般人」

「なんでそんな自分のことを卑下するの？」

岩本さんは、まっすぐに私を見つめる。なにもかもを見透かされていそうな目は私には苦しい。

「別に、卑下してないですよ」

自分なりの愛想笑いで岩本さんにそう伝える。

「今日は、ありがとうございました。終電まで余裕あるし、駅まで少し歩きたいのでここで解散で大丈夫です」

「でも危ないよ」

「…岩本さんは自分のこと大事にっていうけど、別に誰も心配しないですよ」

そうやって言うと岩本さんの顔がわかりやすいぐらいきつくなる。

「ねえ、俺がさっき言いたかったこと、伝わってないでしょ」

「伝わった上で言ってます」

「…は？」

「岩本さんが心配してくださってるのは今、恋人だからです。恋人の契約が解消すれば私達は赤の他人ですよ」

「Aさ、「帰りますね、また連絡します。ありがとうございました」…っ」

何か言いかけた岩本さんの言葉を遮って駅へ向かう。

____そう、恋人の契約が解消すれば赤の他人。
いくら自分の欲しかった言葉をもらえたからって、それは変わらないんだから。自分に言い聞かせるように走って駅に向かった。

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